読みやすさ、とっつきやすさ、テーマの理解のしやすさ、そんなあらゆる要素が夢中にさせてくれる「有川浩」は、多くの人におすすめしたい小説家となっています。
有川浩が書く世界観はきっと読む側の日常を揺さぶり、読書だから得られる刺激や興奮を改めて認識させてくれるでしょう。
普段小説を読まない、もっと言えば活字なんてまったく興味がないという人にも読んでもらいたい小説家であるため、私は普段からよくおすすめのラインナップに有川浩の名前を入れています。
今回はそんな有川浩のおすすめ小説を10選ご紹介しますので、小説らしい面白さを求めるのならぜひチェックしてみてください。
決して初心者向けというわけではなく、むしろ卓越した技術と仕掛けで読者を驚かせてくれる高度な作家でもあります。
年齢、性別に縛られることなく楽しめるので、この機に有川浩の本で読書を習慣づけてみてはいかがでしょうか。
有川浩のおすすめ小説10選!
塩の街(自衛隊三部作)
大規模な塩害に見舞われた世界が崩壊に向かっていく様子を、生と愛の視点を使って書き切った「塩の街」は、個人的に有川浩のナンバーワン小説だと思います。
2人の男女が塩で満ちた街のなかで生きるさまざまな人たちと出会い、「やるべきこと」に気づいていく物語の過程からは、特別な美しさを感じられることでしょう。
厭世的な雰囲気が全体にありますが、それでもたくましく生きるキャラクターたちの様子が書かれているので、むしろ希望的な感覚に浸りながら読み進められます。
何といっても有川浩の真骨頂である恋愛要素が文章を彩っているため、塩の味を感じさせないほどの甘さを実感できるでしょう。
「世界が滅ぶほどの塩害」という突飛な世界がリアルに書かれていることがすごく、読んでいるとSFフィクションであることを一瞬忘れるような気さえします。
登場人物たちの心理や塩害がもたらす「実害」によって形成されていくドラマには、最後まで目が離せなくなるでしょう。
これがデビュー作という衝撃……この塩の街を軸として、有川浩は「自衛隊三部作」と呼ばれる小説を刊行していきます。(塩の街は陸上自衛隊がメインですね)
「空の中」「海の底」もまた塩の街レベルのクオリティがあるので、そのまま続けて3冊の読破もおすすめです。
クジラの彼
有川浩の良さがぎゅっと詰め込まれた短編集「クジラの彼」もおすすめ小説となっています。
遠慮することのない剛速球で投げられる恋愛要素は、頭をクラッとさせるほど濃密です。
正直私は恋愛小説に強いタイプではないのですが、ここまで芯を持った内容を書かれれば、じっくりと読まないわけにはいきません。
自衛隊の恋愛というやや特殊な状況を巧みに使った描写の数々が、それぞれの物語を引き立てるギミックとして機能しているのも特徴。
国を守るという使命を持った自衛隊と一般的な恋をここまで直線的につなげた発想こそ、有川浩の魅力だといえるでしょう。
切ない恋愛物語を読みたいけれど、ありきたりな設定では物足りないという人には、こちらの小説をおすすめしておきます。
本作には「空の中」と「海の底」の番外編もあるので、既読済みならなおさら面白く読めることでしょう。
図書館戦争
おそらく有川浩の作品のなかで最も知名度があり、そして最も作者らしさが出ている小説が「図書館戦争」です。
「表現の自由」という本における最重要事項を題目に、メディア良化委員会と武力抗争を行う図書隊員の物語は、まさに戦争というタイトルにふさわしいものとなっています。
図書が強引に検閲され、どんどん本の存在が固定化されていくという内容は、どこかブラッドベリの華氏451を彷彿とさせるかもしれません。(雰囲気は全然違いますが)
政治や軍隊についての記述も多くあり、銃撃戦もがっつり行われますが、本作は基本的に有川浩節全開のラブコメディです。
主人公である笠原 郁と堂上 篤のやりとりを堪能して、にやにやできるだけでも価値のある小説でしょう。
とにかくさらさらっと読めるため、1度世界観を把握してしまえばとことんハマることができますよ。
また本作はアニメや実写映画、マンガといったメディアミックスに成功しているので、小説以外の形で物語を楽しむことも可能です。
さらに小説本編も「図書館内乱」「図書館危機」「図書館革命」「別冊図書館戦争Ⅰ・Ⅱ」と続いているため、キャラクターたちのその後が気になったのならぜひ図書館戦争シリーズを追いかけてみましょう。
レインツリーの国
とってもシンプルな恋愛小説、それゆえになんだか気持ちが洗われるような感覚に浸れるのが有川浩の小説「レインツリーの国」です。
シンプルだから簡単で安直というわけではなく、登場キャラクターの存在を際立たせるための「工夫されたシンプルさ」がそこにあるので、読んだ後は不思議な達成感に満たされるのではないでしょうか。
いわゆる普通の恋愛をするのが困難な2人が、寄り添い、離れ、理解するのが物語の主題ではありますが、実はキャラクターに対する「読者の主観」こそが、小説の内容を読み取るのに重要になってくると思います。
向坂 伸行と人見 利香という2人の登場人物の言動、葛藤を読んで、私たちがどう感じるのか、どう感じてしまうのかで、物語の意味は大きく変わってくるでしょう。
ときにはイラッとしたり、もどかしさを感じる場面もあるかもしれません。
しかし同じシーンを読んだとしても、共感したり、尊敬したりすることもきっとできるのです。
読者としての読み方が試される面白い本だと個人的には感じているので、自分の感覚をフル稼働しながら読んでみるのがおすすめされます。
阪急電車
その構成が小説のすべてといっても過言ではない名作「阪急電車」も、有川浩を読むのなら欠かさずチェックしておきましょう。
阪急電車に乗車した人々のストーリーがオムニバスに展開され、最後には一本の線になっていくような小説です。
前半と後半の対比が素晴らしく、小説内における「時間の経過」が最高のエッセンスとなって読者のこころに返ってきます。
「最後まで読んでよかった」と、そんな感想を得られる小説になるのではないでしょうか。
すべてが日常の範囲を出ない領域で書かれているため、すんなりと物語のなかに入っていけます。
自分自身が阪急電車に乗車しているような、不思議な没入感を味わえるかもしれません。
どきどきして、ざわざわして、そして温かい気持ちになれるような本となっているので、移動時間のお供としてもおすすめです。
植物図鑑
これもまた有川浩の真骨頂!恋愛小説がお好きなら、「植物図鑑」を読まないわけにはいきませんね。
行き倒れていたイケメンを拾うという少女漫画のようなラブ&コメディは心臓に悪く(いい意味で)、読んでいると思わず変な声が出ることもあると思います。
私は男で、先にも言った通り恋愛小説に強いタイプではありませんが、この本を読むと懐かしい甘い感情を恥ずかしいくらいに引き出されてしまいますね。
恋愛を面白く書くのであればどんな手段や設定も辞さない作者の姿勢が見れるので、最上級の恋愛小説を楽しめるでしょう。
植物オタクという主人公のキャラ設定が物語のアクセントになっていて、飽きずに読み進められるのもポイント。
また本作は学生のように純粋でありながらなかなかに「大人な恋愛」を書いている本だと思うので、人によってはその他の作品よりもぐっとのめりこめる部分が多くなるでしょう。
シアター
赤字が続く小劇場「シアターフラッグ」を立て直す鉄血宰相と泣き虫主宰の物語を書いた青春小説、「シアター」もおすすめです。
劇団の主宰である春川 巧が、兄である春川 司に300万円の借金をする、兄である司は無利子でお金を貸すのと引き換えに劇団の経理を担当し、2年間でお金を返すことができなければ劇団を畳めと宣言するストーリーは、とても明確で熱中しやすい構成となっています。
劇団員の内部事情や生活風景を覗き見れるので、演劇の世界に少しだけ近づいたような気になれるでしょう。
色んなキャラクターが登場するのに、その全員をしっかりと認知できるのがこの小説のすごいところ。
ページの上で繰り広げられるやりとりは実勢に目に見えるような気さえするので、思わず応援したくなってしまうでしょう。
登場人物の心理(特に兄の司)が動いていく様子も面白く、演劇に興味のない人でもすんなりとその世界の片鱗に触れることができます。
続編となっている「シアター2」も合わせて、劇団小説というジャンルに挑戦してみてはいかがでしょうか。
ストーリー・セラー
有川浩が書く深愛が特徴的な「ストーリー・セラー」も、ぜひ読んでおきましょう。
とある事情によって作家という仕事を続けるか苦悩することになる妻とそれを支える夫の話には、作者である有川浩が得意とする恋愛の仕掛けが満載です。
有川浩にしては重く、かなり切ない物語となっているので、ぜひまとまった時間を確保してその世界を堪能してみてください。
小説はsideAとsideBに分かれていて、すべてを読むことでストーリーは完成します。
ある意味で小説でしかできない流れというか、フィクションだからこういう形にできた感じがあるので、それも含めて本作を楽しんでみてください。
空飛ぶ広報室
「空飛ぶ広報室」を読んだとき、「やっぱり有川浩はこれだなあ!」と思いましたね。
有川浩でしか書けない自衛隊的要素や人間関係の面白さが満載となっていて、良い意味でいつもの有川ワールドが展開されています。
広報室という多くの人が関わりのない部署を題材とした点も魅力で、色々新しく知れる部分に納得しながら楽しむことも可能です。
そこで描かれるキャラクターたちの仕事に対する熱意は、きっとたくさんの読者を引き込んでくれるでしょう。
素直に読めるストーリーは安心かつ気持ち良い読書を約束してくれるため、例え自衛隊に興味がなくても大丈夫。
むしろ有川浩が持つ知識量と小説的な表現力によって、自衛隊という存在に関する意識が変わってくるかもしれません。
図書館戦争や自衛隊三部作が好きならば、空飛ぶ広報室も要チェックの本となるでしょう。
明日の子供たち
児童養護施設にスポットを当てた小説「明日の子供たち」を読むと、有川浩がいかに「特定の空間を表現する力」を持っているのかがわかります。
可哀想。意識しなくても思わずぽろっと出てしまうような感情を見つめ直すことがどれだけ大切なのか、そんなことを教えてくれる小説です。
私たちが普段考えずに決めてしまっている概念を、根底から揺るがしてくれる内容だといえるでしょう。
ある種のドキュメントのように進んでいきますが、そこはベテラン作家である有川浩なので、しっかり小説としてのエンタメ性を保っています。
最後まで読むことで、知識と達成感の両方を手にすることができるでしょう。
読みやすさが抜群であるためテーマの重みに負けることなく、すいすいとページを進められます。
キャラクターたちのいる場所に入り込むような没入感を自然と感じられたとき、明日の子供たちが本当にこころに残る小説となるでしょう。
有川浩小説の魅力を再確認!
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完成された有川浩だけの「ライトノベル」
有川浩の作品は、初出のレーベルの関係からか「ライトノベル」に分類されることも多いです。
しかしそれは通常のライトノベルとは違い、有川浩が作った世界でのみ許される「独自のライトノベル」となっています。
すぐ頭のなかでイメージできるデフォルメされたキャラクター、リアルとは一線を画した特殊な設定や空気を「自然」に見せる力、そして圧倒的な知識量、それらがきちんと整理されているため、これだけ読みやすくて理解しやすい独自のライトノベル小説が出来上がるのでしょう。
独特の雰囲気が持つ強さのおかげで「これは有川浩の書いた本だな」「この設定は間違いなく有川浩だ」と簡単にわかるので、私たちは安心してその本を読むことができるのです。
京極夏彦先生や森見登美彦先生などもそうですが、読者を安心させる環境が本のなかで完成されているという点が、有川浩を人気にした要因だと思います。
言葉やキャラクターをしっかりと浸透させる小説を作ってくれるので、これからも何の心配もなく私たちは読者でいることができるでしょう。
とにかくキャラクター!
有川浩の小説は本当にキャラクターが魅力的なので、読んでいるだけでぐいぐいと引き込まれていくような感覚を楽しめます。
ひとりでも注目できる存在を見つけられれば、もうそれだけで小説の世界の虜になれるでしょう。
キャラクターにはしっかりとストーリー上の役割が備わっていることから、読者はわずかなページ数でもその登場人物の全体像をつかむことができます。
非常に近い距離間でキャラクターを観察できるのが、有川浩作品の特徴だといえそうです。
「お約束」な展開も非常に丁寧に書かれているので、キャラクターを好きになりながら物語を楽しむことができるでしょう。
キャラクターの良さは読書の意欲にもつながるため、小説に不慣れな人でも気軽に有川浩は読めると思いますよ。
まとめ
有川浩の本は読みやすさという最強の長所があるため、これからも多くの人におすすめしていきたいと思っています。
ラブロマンスから得られるキュンとした感覚には無縁と考えている人も、有川浩を読んでみれば、「これもまたいい!」ときっと思えるはずです。
読書を習慣化するための手段としても最適なので、ぜひ有川浩を読んで「読書のための筋肉」を鍛えてみてください。