村上春樹を理解するために読むべき本10選!まずは作品の選別がおすすめ!

「村上春樹」の活躍は国内外を問わず、デビューから今にかけて多くの読者を獲得し続けています。

これだけ長く作家として活動していながら現在進行形でコンスタントに新作を発表していく姿勢はさすがで、私もまた1人のファンとしていつも楽しみに作品を待たせてもらっています。

しかし村上春樹作品はその刊行ペースのおかげで非常に数が多くなっていて、新規参入しづらいイメージがあるかもしれません。

タイトルから内容を連想できない作品もたくさんあるため、何を選べばいいのかますますわからなくなってしまうでしょう。

そこでこちらでは、村上春樹の魅力をまだ知らない人のためにおすすめの本を10選お届けしたいと思います。

村上春樹の独特の雰囲気に慣れていない人は、まず以下の10つから読む本を探してみましょう。

村上春樹のおすすめ10作品!

海辺のカフカ

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

村上春樹作品の魅力と聞かれれば、私の場合は「ミステリーやファンタジーが自然と現実の光景に融合していくおもしろさ」だと答えます。

そんな独特の世界観をもっとも味わうことができるのは、名作「海辺のカフカ」となるでしょう。

15歳の少年を中心とした物語には、現実的な問題と観念的な問題があらゆる形を持って登場します。

読み進めるうちにどんどん現実とファンタジーが違和感なく合わさっていく不思議さ、そして結果的に1つの世界を形成する様子は村上春樹作品ならではのものですね。

無駄な描写がほとんどない(と思う)ので、繰り返し読むごとにあらゆる場面がリンクしていくように感じられます。

ただの青春小説ではなく、ミステリーのように解き明かすおもしろさもあることが、本作をおすすめする大きな理由となっているのです。

また海辺のカフカは、15歳の少年と60代の老人、そしてカラスと呼ばれる謎の人物の視点によって成り立っています。

多くの人が通り過ぎてきた15歳という年齢と、これから到達する可能性がある60代という年齢が軸になっているので、村上作品では珍しいほど感情移入がしやすいです。

またそこにカラスと呼ばれる少年の「思想」が加わることで、私たち読者はこの作品に書かれていることを自分の生活に重ねながら考えることができます。

もし以前に村上春樹を読んで挫折したことがあるという人は、自分自身の問題としても感じることができる海辺のカフカをぜひチェックしてみてください。

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

色彩を持たない多崎つくると 彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)

そこそこ最近の村上春樹作品であり、かつ読みやすい部類に入る「色彩を持たない多崎つくると 彼の巡礼の年」も、おすすめしたい作品となっています。

本作の良いところは村上作品ならではの「異国の雰囲気」と「現実から遠ざかる旅の感覚」、そして「登場人物ごとの視点で物事を考える」というポイントがそろっている点です。

ある意味でこれらの要素は村上春樹を読み解く基本だといえるので、別の作品につなげるための練習本となってくれるでしょう。

主人公の置かれている立場はかなり特殊ではありますが、その周囲の人間関係や大人になるにつれて変化していく寂しさのような感情は、多くの人に馴染み深いものになると思われます。

特に社会人として生活を始めたばかりの人、そしてある程度そういった生活に慣れてしまった人には、刺さる内容といえるのではないでしょうか。

幻想的過ぎないので情景を想像しやすく、読み進めることに難しさを感じにくいので小説に不慣れな人にもおすすめです。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)

ねじまき鳥クロニクル

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

個人の意見ですが、「ねじまき鳥クロニクル」は村上春樹作品にとって1つのターニングポイントになった作品ではないかと考えています。

そのためまだ村上作品に触れたことがない、もしくは読み方がイマイチわからないといった人には、とりあえずおすすめする作品と決めているのです。

主人公の周囲の変化、主に所有物が失われる(村上春樹風に言うと「損なわれる」)ことから本作の物語はスタートします。

その理由は何なのか、それは自身の力で解決することができるのか、そういったミステリー的な問いかけが行われながら進むため、ある種の緊張感を持って楽しむことができるでしょう。

物語の語り手である主人公よりも、周囲にいる登場キャラクターたちの過去の方が詳しく描写されるのが本作の特徴で、受け取り方によって評価が変わるかもしれません。

文庫本で全3冊という長丁場であるため、「無駄なシーンなのでは?」と思われることも多いです。

しかしそういった別々の人生が描写されながら、客観的に見つめることを強いられる様子が、近代文明を表現していると考えることができるのではないでしょうか。

次々と登場するリアルなキャラクターたちが現代に何を感じているのか、そしてそれによって主人公と読者はどのような変化を受けるのか、じっくりと読みながら悩んでみることをおすすめします。

また本作は村上春樹のキーとなる「井戸」や「暴力的なアプローチ」に焦点が当てられた作品となっているので、作者の感性を理解する必読書となるかもしれません。

ねじまき鳥クロニクルが発表されるまでの村上春樹作品は、どちらかといえばノルウェイの森のように「時代や周囲に流される主人公」が多かったように思われます。

しかし本作ではそういった時代や可能性といった概念的な存在に対して、真っ向から立ち向かうような姿勢を見ることができるでしょう。

それは間違いなく作者本人の変化であり、新しい村上作品の在り方であると捉えられます。

村上作品を仮に前期と後期に分けるのであれば、私はねじまき鳥クロニクルを後期作品の1発目に配置するでしょう。

その後の作品にも深く影響しているであろう本作は、ぜひ機会を見つけて読んでみることをおすすめします。

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

スプートニクの恋人

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

村上春樹の作品では、いつもさまざまな恋模様が描かれています。

その多くは熟成された大人の恋、もしくは人間愛のようなものに近いことがほとんどであるため、直線的な恋愛要素はどちらかといえば控えめな作家だといえるでしょう。

しかしこちらの「スプートニクの恋人」は、そういった前評判を覆す作品となっているのです。

この物語は恋で始まり、そしてその後も恋心を1つの道しるべとして進行していきます。(異論はあるかもしれませんが……)

その過程のなかで新しい発見と疑問が繰り返されるため、思わずのめり込んでしまうのも無理はありませんね。

もちろん男女の駆け引きや甘いシーンよりも、村上春樹らしい不思議さが重視されているので、他作品でファンになった人も安心して楽しめるでしょう。

主人公側の現実と物語の主軸となる幻想的な世界を行き来することで、通常の恋愛小説では表現しきれない深層心理的なものを描いているのも魅力です。

恋愛要素が好きなら、村上春樹への導入小説としてスプートニクの恋人を選択するのもおすすめできます。

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

国境の南、太陽の西

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

最初に「国境の南、太陽の西」を読んだとき、「すごく普通な小説」だと思いました。

ゆるやかに始まる導入部分、大きな事件にや神秘的な要素にフォーカスしない展開、それらは生活感こそあるものの、パンチのある内容とはいいがたいと感じていたのです。

文体や言葉の選び方は村上春樹らしいのですが、小説の構想そのものとしては物足りない。そんな評価が私のなかでは固まっていました。

でもこの作品は、その後何度も読むことになっています。そして読むたびにいろいろな部分に疑問が沸き、それを解決するためのアイデアが自分のなかで生まれてくるのを感じているのです。

「もしかして、このシーンは囮なのでは?」「本当に描写されている通りの場所なのか?」そんなことを考えながらいくらでも読み直せるのが、「国境の南、太陽の西」という作品の魅力となっているのでしょう。

村上作品は基本的に深読みをさせる小説ですが、本作ほどそれを実感させてくれるものはありません。

ページ数も程よく中編に近い作品なので、時間がない人にもおすすめできます。

自分の読書力を試されるようなおもしろさを、ぜひ1度体験してみてください。

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

ここまでご紹介してきた通り、村上春樹の小説には現実と非現実に別けられるような世界が多数登場します。

それらが上手く混ざりあっていくことが村上作品の基本的なプロセスですが、この「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」はそういった基本を作り上げた本だといえるでしょう。

小説のなかには「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」の2つの世界が登場し、それぞれの視点が交互に描写されることで物語は進みます。

何度もがらりと場面が変わるので、その勢いに乗ることができれば最後まで一気に読めるかもしれません。

どちらかの世界が一方のオマケに落ち着いているわけではなく、それぞれ1冊ずつ発表しても通用するであろうクオリティを有しているのが魅力。

読者が自由な発想でその世界をつなげることも可能ではないかと思われるので、繰り返し読むことをおすすめしたいですね。

徐々に不思議な出来事が起こるというよりも、最初から不思議な世界が出来上がっているという設定になっているため、他にはない村上春樹の一面を楽しむことができます。

バッサリ世界が別れているからといって読みづらさは感じられないので、小説に慣れていなくても安心して読破することができるでしょう。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

神の子どもたちはみな踊る

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

村上春樹を理解するのなら、長編小説以外の作品も読み解かなくてはならないでしょう。

本作「神の子どもたちはみな踊る」は、阪神淡路大震災を軸として執筆された作品が集められている短編集です。

登場人物たちが何かしらの形で地震に関わっていて、それぞれ何かを思い、何かを感じながら生きている様子が短いシーンで描かれています。

短編であるため非常に説明が少なく、読者は基本的にそこに書かれている言葉の意味や裏側を自分自身の力で解釈しなければなりません。

しかし地震というきっかけがすべての作品に共通していることから、想像は自然と同じ方向に向けられ、心に染み入りやすい内容となっています。

さっと読める短さなので、村上春樹の雰囲気がどんなものなのかチェックしたいときにも便利な本となるかもしれません。

短編集は他にもありますが、最初はテーマがはっきりとわかりやすい「神の子どもたちはみな踊る」や「東京奇譚集」がおすすめできるでしょう。

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

ダンス・ダンス・ダンス

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

村上春樹の作品は、その時代特有の空気を反映している部分が多いと思われます。

そのため当時の雰囲気を知らないまま古い作品を、特にデビュー作から順に読んでいったとしても、その良さを本当に理解することは難しいでしょう。

そこで1から村上春樹を楽しむために、「ダンス・ダンス・ダンス」の読書をおすすめします。

ダンス・ダンス・ダンスは村上春樹の出発点である「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」の続編という立ち位置であり、主人公をはじめとした同一のキャラクターが複数登場しているのです。

しかしこれらの作品は最初から読まなければまったく話がわからないということはなく、むしろそれぞれが独自のおもしろさを有しています。

なかでもダンス・ダンス・ダンスは現代の雰囲気が色濃く描写されていて、今の時代に読んでも古臭さを感じません。

すんなりと物語の特徴やキャラクターの感情をつかむことができるので、その魅力を理解しやすいといえるでしょう。

本作を読めば自然と過去作に遡っていくことが可能となるため、村上春樹の出発点にたどり着くことが容易となります。

なぜ村上春樹がここまで評価されているのかを知るためにも、ダンス・ダンス・ダンスから関連作品を読み漁っていくことがおすすめです。

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

職業としての小説家

職業としての小説家 (新潮文庫)

村上春樹の小説を理解するには、作者自身を好きになることも重要なポイントだと私は考えます。

そこで小説作品だけでなく、「職業としての小説家」のような番外編的な本もぜひおすすめしたいのです。

こちらの本は村上春樹本人が小説家という職業について、自分自身の過去について、そして世界のあらゆることについて語った自伝のような本となっています。

その思考や生活風景をリアルに思い浮かべることができるので、村上作品をより身近な存在として感じることができるでしょう。

本作の読破はメディアへの露出がほとんどないことから謎のイメージが強い筆者の姿を、具体的に確かめられる良い機会となりますね。

作品に影響しているであろう考え方や生き様が惜しげもなく披露されていることから、村上春樹を根底から把握しようと意気込む際にはどうしても避けては通れない本となることでしょう。

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

世界は村上春樹をどう読むか

世界は村上春樹をどう読むか (文春文庫)

おすすめとして選ぶべきかどうか迷いましたが、村上春樹がなぜ世界的に売れているのかを知ることもまた、筆者の作品を理解するきっかけになると思えるのです。

「世界は村上春樹をどう読むか」は、村上春樹と親交の深い柴田 元幸氏の編集によって作られたシンポジウム(討論会)の記録書となっています。

村上作品を翻訳した海外の翻訳者が多数参加し、村上春樹の魅力を分析して語りつくすこの本は、異色ながら読み応えのある本だといえるでしょう。

海外の視点で日本の作品を見るという機会はあまりないので、この本を読んだ経験はその後の読書すべてに活かされるかもしれません。

各国で村上春樹がどのように扱われているのかも書かれているので、また違った形で作品の本質を確かめることもできるでしょう。

世界は村上春樹をどう読むか (文春文庫)

世界は村上春樹をどう読むか (文春文庫)

  • 作者: 国際交流基金,柴田元幸,藤井省三,四方田犬彦,沼野充義
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/06/10
  • メディア: 文庫
  • 購入: 3人 クリック: 27回
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村上春樹作品に関する疑問とアドバイス

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Ned Snowman / Shutterstock.com

基本的に読み返すほどに深みが増す

村上春樹の文体は独特でありながらも非常に安定しているので、慣れてくればスラスラと読み進められるようになるでしょう。

しかしその読みやすさゆえに文章を吟味することを忘れてしまい、「結局どういうことだったの?」と混乱することもしばしばあります。

そのためなるべくなら2度、その作品にハマれたのならそれ以上の回数を読み返してみましょう。

純文学の多くがそうであるように、村上春樹の作品も1度読んだだけで意図している内容をすべて汲み取ることは難しいです。

頭からでなくても構わないので、自分の気に入っている部分をときどき読み直してみてはいかがでしょうか。

最初はさらっと、次はじっくりと、そうやってスタイルを変えながら何度も読み返してみることをおすすめします。

他の本で読書に慣れてからの方がいい?

私の周りにも、「村上春樹の本は難しそう」「いきなり読むのは気が引ける」といった感じで村上作品を敬遠している人がいます。

しかし自分で作品に壁を作って読書の機会を先延ばしにするのは、非常にもったいないことだといえるでしょう。

村上春樹の本はたしかに考えることを促すような内容が多いですが、だからといって読みづらい本になっているわけではありません。

むしろ文章だけでみれば、そのすっきりと整理整頓されたスタイルは誰でも気軽に読めるものだといえます。

音楽のように一定のリズムが感じられるのも特徴で、自然と体から文章に慣れることができるでしょう。

なのでとりあえずは、あれこれ悩むのではなく気になった作品の1ページ目をめくってみることをおすすめします。

まとめ

村上春樹は、正直好き嫌いの別れる作家であるとは思います。

しかしだからこそ食わず嫌いや、正当でないジャッジによる評価はなくしていきたいのです。

ここまで読んでいただけたということは、きっと村上春樹に大変な興味があることでしょう。

それならぜひ、上記の10選を参考にさっそく読書を始めてみることをおすすめします。

私個人の経験ですが、最初はイマイチだと感じても、段々読み方がわかるにつれておもしろくなってくるのが村上作品です。

その魅力を堪能できるように、ぜひこの機にチャレンジしてみてください。

この記事を書いた人

syunkin999