これだけたくさんのミステリー作家がいるなかでも、「横山秀夫」先生の作品はひときわ魅力的で、常に注目が集まることになっています。
人間の心理や組織の面白さを書きながら、驚きの真実を突きつけられる物語のスタイルは、何度読んでも心揺さぶられることになるでしょう。
今回はそんな横山秀夫小説のなかから、おすすめするべき10作をチョイスしてみたいと思います。
ミステリー好きや刑事もの好きの人、もしくはとにかく夢中になれる本を探している人は、ぜひ参考にしてみてください。
横山秀夫とはどんな作家なのか?
横山秀夫先生は、ミステリー関連の賞を多数受賞した経歴を持つベテラン作家です。
1998年には「陰の季節」が松本清張賞を獲得&直木賞候補となり、一躍ミステリー界に躍り出ます。
その後も週刊文春ミステリーベストやこのミステリーがすごい!、本格ミステリーベストに作品がランクインして、出るたびに話題を作る小説家となっているのです。
本格ミステリーを成り立たせる構成と文章力はどの作品にも共通していて、納得のいく緊迫感と切実な人間心理を楽しめるでしょう。
最近では「64」がイギリスのインターナショナル・ダガー賞の最終候補とドイツ・ミステリー大賞海外部門第1位に選ばれ、その実力が改めて評価されています。
その結果に納得の読み応えがある小説ばかりなので、この機に以下のおすすめ作品から1冊を手に取ってみてください。
横山秀夫のおすすめ小説10選!
64
横山秀夫先生にとっては比較的新しい作品でありながら、ほとんど代表作といっても過言ではない「64」は、絶対に読んでほしいおすすめミステリー小説のひとつです。
昭和64年に起きた「ロクヨン」と呼ばれる誘拐殺人事件、平成になっても進展を見せないその未解決事件はその後時効が近づき……といった背景が物語の根底となっています。
その下地を使って表現されるのは嫌悪感を引き起こすほどのぐちゃぐちゃとした人間心理、確立された組織ゆえに起こる内部事情とそれが生み出す息苦しさ。
刑事小説を活かす要素が余すことなくつめこまれているので、その面白さを存分に堪能できるでしょう。
当然ながらミステリーとしても最高品質で、複雑に絡み合った謎と謎が最後まで息つく暇を与えません。
ひとつクリアしたと思ったらまた出現する新たな問題が、とにかく物語を加速させてくれるのです。
広報官となった主人公がマスメディアと行う情報戦も魅力で、ミステリーとしては一味違った感覚を楽しめます。
正義感や人間臭さが持ち合わせる「熱さ」もあり、自然とページをにぎる手に力が入ることになるでしょう。
上下巻は長く感じられるかもしれませんが、スピードが落ちる心配はないのでまずは読み始めてみることがおすすめです。
陰の季節
「64」にもつながる「D県警シリーズ」の一作目であり、横山秀夫作品の面白い理由が凝縮されている「陰の季節」もおすすめ小説です。
警察の「人事」を主題とした新感覚の刑事ミステリーは、予想させないドラマティックさを提供してくれます。
人間の心を警察という組織のなかで培養すると、どのような形に変わっていくのか、そんなことを考えさせるような展開が目白押しです。
仕事をする限り避けては通れない人事や出世の問題は一見地味に思えますが、読めば読むほどその深みに魅了されてしまいます。
意表を突かれる展開が続き、二転三転とする物語はまさに極上のミステリー。
刑事小説に興味があるとかないとかは関係なく、とにかく純粋に面白い謎が書かれているので、小説という形態が好きならばおすすめできる本となっています。
この短編集を読んで横山秀夫を知れば、もっともっと他の作品を読みたくなることでしょう。
クライマーズ・ハイ
小説の世界が人間の心を熱くふるわせることは多々ありますが、「クライマーズ・ハイ」もまた、そういった振動力を持った名作だといえるでしょう。
飛行機の墜落事故をきっかけに展開する物語からは、記者である主人公「悠木和雅」の奮闘と、それに触発される人々の熱意が感じられます。
たくさんの葛藤と歯がゆさがあっても、悲惨な事件に真っ向から立ち向かう様子には、胸が熱くなること間違いなし。
新聞記者を中心に置いたからこそ広がる視点ともどかしさが、「クライマーズ・ハイ」特有の緊迫感を与えてくれるのです。
タイムリミットや人間関係の複雑さが緊張感を煽り、主人公と読者に重圧としてのしかかってくるのもこの小説の魅力。
あらゆるものを背負いながら結末に向かって収束していくストーリーは本当に圧巻で、何度読んでも夢中になってしまいます。
ジャーナリズムや人生観について学べるような部分もあるため、じっくりと時間をかけて読み解いてみてください。
半落ち
「半落ち」というタイトルの時点で既に始まっている壮大な仕掛けは、最後の最後に言葉にできないレベルの感動を与えてくれます。
妻の殺害を自白した刑事は、すべてを認めているのに事件から自首までの2日間は一切語らない、そんな「半分落ちた」状態を維持しているのは何故なのか。
複数の視点で事件を明るみにしていく構成も合わさって、読むほどに想像の深みにはまる小説です。
警察官、検事、新聞記者、裁判官、弁護士、あらゆる職業の人間が自分の立場から事件に思いをはせる構成は物語の核を強固にしてくれます。
すべての視点を渡ってたどり着いたラストは、たくさんの小説体験のなかでも忘れられないものとなるでしょう。
横山秀夫先生の代表作であり、今後も「まずこれを読んでみて!」とおすすめしていける小説なので、最初の1冊として候補に挙がりますね。
第三の時効
横山秀夫の魅力をがっつりとつめこんだ「第三の時効」は、傑作ばかりの連作短編集としておすすめできます。
短いページ数でストンと落とす技術はさすがで、読めば読むほど他の作品が気になってくる完成度です。
それぞれの物語を牽引する主人公も魅力的であり、その個性を警察という職業で見事に活かしきっているのも本作の特徴。
警察内部を複雑化する人々の思惑や駆け引きが、ハラハラとした面白味をプラスしてくれます。
私は特別警察小説に詳しいわけではありませんが、それでも「そうくるのか!」と度肝を抜かれてしまいました。
普段から刑事ものに慣れていない人は、「第三の時効」をきっかけにその空気にハマれるかもしれませんよ。
臨場
検視官「倉石義男」を主人公とした短編集「臨場」も、おすすめの小説となります。
その鋭い感覚と推理力、そしてぶっきら棒だけど頼りたくなる人柄が魅力の倉石義男は、横山秀夫先生が書くキャラクターのなかでも特に素敵な存在です。
まるでヒーローのように現場に登場する様子は本当に格好良く、そのシーンを読みたいがゆえにどんどんページを進めてしまいます。
どれもがコンパクトに終わるお話なので、すぱすぱっと切れ味の良いテンポでミステリーの解決を楽しめるでしょう。
「終身検視官」という異名を持つ倉石義男を、ワトソンの視点から見る構成もまた面白さを引き出しています。
検視官という職業はあまり馴染みがありませんでしたが、この本を読めばその仕事が抱える使命や心意気が、熱く心に刻み込まれることでしょう。
影踏み
珍しく犯罪者側の視点から書かれている「影踏み」もまた、読んでおきたい横山秀夫小説です。
深夜の泥棒「ノビ師」である主人公「真壁修一」は、高度な頭脳と暗い過去を持つダークな存在として書かれています。
さらに本作は「亡くなった弟の声が聞こえる」という不思議な設定も盛り込まれているため、いつもの横山秀夫先生とは違った雰囲気が楽しめるのもポイント。
最初は現実的な世界に突然描写されるあり得ない声に戸惑うかもしれませんが、これがまたいい感じにキャラクターと読者を近づけるきっかけを作ってくれています。
連作短編集という読みやすい形でもあることから、横山秀夫の新しい一面を発見できるでしょう。
物語はあらゆる形に変化し、血生臭さだけではない柔軟なミステリーが見られます。
行動力のある主人公が色々なアクションを起こしてくれるので、期待値を高くして読み進めることができるでしょう。
2019年にはミュージシャンの「山崎まさよし」を主演に向かえた映画の公開も予定されているので、早めのチェックがおすすめです。
ルパンの消息
横山秀夫のデビュー作「ルパンの消息」は、いつ読んでも作者の面白さを強く感じられる本となっています。
自殺とされていた事件にタレこみが入り、殺人に切り替えての再調査が始まるが、残されている時効はあと24時間だけ……という緊迫感満載のストーリーがもう面白い。
15年前の時間軸と共に、現在の捜査が進展していく様子は引き込まれること請け合いです。
三億円事件まで絡んでくる規模の大きさも手伝って、壮大なミステリーを楽しめるでしょう。
伏線の配置と鮮やかな回収技術、そして目まぐるしく変わる結末へのルートが後半の怒涛の展開を生み出しています。
「ルパンの消息」はミステリーというスタイルがいかに面白いものであるのかを、あらためて見せつけられるような小説だといえるでしょう。
震度0
警察組織の裏側を書いた長編小説「震度0」も、おすすめの横山秀夫作品となっています。
阪神大震災と同時にN県警の課長が失踪する、そんな自然災害と失態に揺れる警察内部をあらゆる角度から浮き彫りにした構成はお見事。
事件を軸に保身や出世にばかり目がいく上層部が描かれる様子は、ときに痛いくらいのいらだちを感じるかもしれません。
それでも人間の生々しい感情をほじくりだすような展開は、小説に許されている文章量だからこそ描けた魅力だといえるでしょう。
読破した人間としてはおすすめしたい本なのですが、スカッとしないタイプの内容ではあるため、鬱々とした気分のときに読むのであれば注意が必要ですね。
出口のない海
ここまでおすすめしてきたものとは大きく形を変えながら、確かな横山秀夫節が感じられる「出口のない海」もおすすめの小説です。
いわゆる戦争を書いた小説であるため、そこには多くの痛みや悲惨さが見られます。
戦時中に利用された人間魚雷「回天」の存在とその実態、乗ったが最後戻ることはできない「出口のない海」の恐怖。
そんな回天に乗ることになった甲子園球児「並木浩二」の生と心を中心に書いた本作には、体の芯をつかまれるような感覚があります。
苦しくなるくらいの葛藤が書かれているので、読んでいると多くの感情がぶつかってくるでしょう。
全体を見れば青春小説の体をなしている本でもあるため、よりその命の重みが伝わってくるようです。
複雑な心理描写を得意とする横山秀夫先生だからこそ書けた、時代を考えさせてくれる小説となっています。
警察小説以外でも当然のように傑作を生みだす作者の守備範囲の広さを、ぜひ「出口のない海」で体験してみてください。
横山秀夫小説をおすすめする理由
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組織の面白さとミステリーの面白さが絶妙
横山秀夫作品の特徴といえば、警察をはじめとした「組織」の描写です。
ときにキャラクターの行動の妨げとなり、またときには助けとなる組織という「生き物」を書く技術が、特に見どころだといえるでしょう。
重厚な組織描写だけに終わらず、最終的な目的となるミステリー要素がしっかりと書かれているのも魅力。
このミステリーと組織描写の絶妙なブレンドが、横山秀夫作品を確立させることになっているのです。
ミステリー好きも警察小説好きも楽しめるその構成が、おすすめの理由だといえるでしょう。
警察小説の入り口として
横山秀夫小説は警察という専門的な組織を取り扱うため、やや難解で固そうなイメージを持たれるかもしれません。
しかし心理描写の巧みさと読みやすい文章のおかげで、まったく問題なく読破することができるでしょう。
そのため警察小説をあまり読んだことがないという人も、気軽に物語に入りこめるはずです。
この機に横山秀夫小説を入り口として、警察小説やそこで活躍する刑事の面白さを味わってみるのもおすすめできます。
横山秀夫と合わせて読みたい小説家
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池井戸潤
企業内のゴタゴタやそこでの人間関係を書くことに定評のある「池井戸潤」先生は、横山秀夫作品にハマった人にもおすすめです。
仕事をする人々とそれを取り巻く生活、そして敵として立ちふさがるライバルを書いた名作の数々は、ぜひチェックしていただきたい。
横山秀夫作品と同じく映像化の定番でもあるので、小説の中身を映画やドラマで楽しむことも可能です。
基本的に爽快感のある作品が多いため、スカッとした面白さを体感できるでしょう。
誉田哲也
警察小説にも色々あるという点を紹介したいので、私は横山秀夫作品を読んだ人に「誉田哲也」先生をおすすめしています。
書き方や描いている物語の本質は変わってきますが、警察小説の多様性を知る意味でも、2人の作品の相違はぜひチェックしておきましょう。
「ジウシリーズ」「姫川玲子シリーズ」「魚住久江シリーズ」といった警察ものを筆頭に、名作が多数出版されています。
その他にも青春小説「武士道シリーズ」や多ジャンルの小説を書いている作家なので、あらゆるスタイルの本を楽しむことができるでしょう。
まとめ
横山秀夫先生の小説は、多くの人を受け入れる懐の深さを持っています。
とにかく1冊読んでみれば、その重厚な物語に魅了されることになるかもしれません。
長編も短編も素晴らしい構成になっているので、小説好きを心から楽しませてくれるでしょう。