ホラー、ミステリーといったジャンルで多数の名作を書き挙げている作家「道尾秀介」は、おすすめしたい小説家のひとりです。
刺激的な展開とぐつぐつと煮えるような感情が渦巻く小説からは、多くの面白さを見つけられるでしょう。
今回はそんな道尾秀介先生の作品のなかから、おすすめの小説10冊をご紹介したいと思います。
どれもが夢中になれるきっかけを持った小説となっているので、この機に最初の1冊目を選んでみてください。
道尾秀介とは
道尾秀介は直木賞候補に5回連続で選出された後、「月と蟹」の受賞によってその地位が確立された作家として知られています。
本格ミステリ大賞や日本推理作家協会賞も受賞していることから、ミステリー部門の専門家といえるでしょう。
またデビュー作がホラー小説となっているので、怖い内容や不気味な雰囲気が好きな人にもおすすめできます。
多くの作品から不安を煽るようなミステリー・ホラーを感じられるため、文章ならではの怖さを経験したことがない人はぜひ道尾秀介作品をチェックしてみましょう。
道尾秀介のおすすめ小説10選!
向日葵の咲かない夏
道尾秀介の代表作としてまず1冊を挙げるのであれば、「向日葵の咲かない夏」をおすすめします。
友人であるS君の死んでいる姿を発見した主人公、しかしその後彼の死体は消え、代わりに別の存在となったS君が自分が殺されたことを告げる。主人公は妹と共に、その事件の謎を追いかけるというのがストーリーです。
しかしこれはあくまで表面上のもの、実際は何とも形容しようのない衝撃の展開が、終盤に向けて多すぎるくらいに準備されています。
これ、予想できるものなのでしょうかね。
少なくとも私は、しばらく混乱するくらいに驚かされました。
キャラクターもストーリーも気持ち悪くて狂気的な小説である本作は非常に刺激が強いので、なかには肌に合わない人がいるかもしれません。
しかし徐々に恐怖が露出してくるようなミステリー構成は素晴らしく、好き嫌いとは別の部分で引き込まれることになると思います。
特異なホラー小説として認知する人も多いほどの怖さは他の小説にはないため、道尾秀介を読むのであれば間違いなくチャレンジしてほしい本です。
背の眼
ホラーとミステリーのメリットを混ぜ合わせることが得意な道尾秀介は、絶妙なバランスで怖いストーリーを作ってくれます。
特にデビュー作である「背の眼」は、ホラー&ミステリーのジャンルが多くの読者に刺さることを教えてくれる名作小説だといえるでしょう。
子供の神隠し事件と聞こえないはずの声、自殺者の写真に入りこんだ背中の眼、それぞれの不確定要素を暴いていく謎解きがストーリーの核となっています。
殺人事件という現実感のある恐怖と、心霊現象という非現実な恐怖、2つ合わさって別の色合いを表現しているのが本作の魅力です。
やや残酷な描写はありますが、「とにかく怖がらせてやろう」という意地悪なホラーではないので、ホラーへの耐性をつけるきっかけになるかもしれません。
全体的にしっかりとしたミステリーが下地になっていることから、続きを気にしながら読み進めることができるでしょう。
霊現象探求家である真備 庄介とその助手である北見 凜、そして作者と同姓同名の売れないホラー作家道尾 秀介が語るというスタイルのおかげで、キャラクターを見る楽しみもあります。
本作は真備シリーズとして「骸の爪」と「花と流れ星」に続いていくので、登場人物が好きになったのなら続編の読書もおすすめです。
龍神の雨
怖さとは何もドキッとするシーンをワンショットで書くだけでなく、少しずつ染み込むような文章の積み重ねによっても感じることができます。
「龍神の雨」はそういったゾクゾクとする雰囲気を持った、道尾秀介先生渾身の1冊だといえるでしょう。
事故で死んだ母親と再婚したばかりだった義父は、仕事もせず自室に閉じこもり、挙句の果てに暴力をふるうようになる。
そんな義父に明確な殺意を持つようになる主人公「蓮」とその妹「楓」を中心に新たな事件が発生する流れは、じっとりと湿った独特の怖さを提供してくれるでしょう。
主人公兄妹だけでなく、同じく血のつながらない継母と暮らす兄弟「辰也」と「圭介」の視点も絡み合うことで、物語が単調にならないのが特徴。
2つの家族が抱える闇はミステリーとしての完成度を高めるてこの支点として働き、とことんまで読書に夢中にさせてくれるのです。
小説全体を通して漂っている暗い空気は雨の描写によって増大し、体が重たくなるような感覚につながります。
この小説を楽しむのなら、その感覚にあえて浸ってみることがひとつのポイントになるでしょう。
犯人捜しだけでなくそれぞれの家族とキャラクターの心理を把握して、感情移入をしながら読んでみることがおすすめです。
球体の蛇
なんて嫌な小説……そういうと否定しているように聞こえるかもしれませんが、率直な感想として「嫌」という言葉が出てしまうほど「球体の蛇」は衝撃でした。
いくつもの事件とそれを助長する最悪の展開が暗い雰囲気を前面に押し出し、小説のなかに鬱々とした流れを生み出しています。
死んだ幼馴染の秘密、その彼女に似た女性との出会い、そして奇妙な人間関係のなかでの「すれ違い」が本作の見せ場です。
何が本当で何が嘘なのか読者にはわからない「有耶無耶な悪意」は、読んでいくうちにどんと胸を押し付けるような圧迫感に変わっていくでしょう。
次々に真相が入れ替わり、翻弄されていくさまは本当に素晴らしいミステリーなのですが、それを忘れさせるほどの「重み」がすごい。
結局何がどうなったのか……それは結局読んだ人の想像と願望に委ねられることになるでしょう。
この小説はおそらく一種の恋愛小説だと思いますが、道尾秀介という作家が全力で着色すれば、恋愛はこんなにも不穏な色になるのですね。
純粋なホラーとは違う人間の悪意という怖さを、ぜひ「球体の蛇」から読み取ってみてください。
光媒の花
道尾秀介を知るのであれば、切なくとも温かい名作短編集である「光媒の花」も要チェックとなるでしょう。
全6作の連作短編はどれもが魅力的で、それぞれに独立した空気が備わっています。
それでいてキャラクターによってそれぞれの物語はつながっているため、緩やかな連帯感を感じながらストーリーを楽しめるのが特徴。
その章で登場したキャラクターを次の章の主人公として使うスタイルのおかげで、スムーズに物語に入りこむことができるでしょう。
また純粋に道尾秀介の文章の美麗さを堪能できる本でもあるため、最初に読む小説としてもおすすめできます。
物語全体を通してみれば悲しみや暗さはたしかにあるのに、この小説にはほのかな救いも見出すことが可能です。
怖くて重いだけの話が作者の小説でないことが、この「光媒の花」を読めばわかりますね。
月と蟹
逃げ場のない閉塞感に満ちた少年時代を書いた傑作「月と蟹」は、道尾秀介のなかでも特におすすめできる本です。
少年の視点だからこそ発生する憎悪や激情が、読書をぐんぐんと引っ張っていってくれるでしょう。
主人公と唯一の友人がヤドカリを神様として扱う「ヤドカミ様の儀式」を軸に進む展開は、子供らしさの裏にある残酷さを引き出してくれます。
子供だから本気で信じられるその儀式が中心にあるからこそ、不思議な魅力と不気味さが全体から感じられるでしょう。
一歩間違えればあらゆるものが壊れてしまうような危うさが小説に満ちているので、タイトルや表紙からは想像できない過酷なストーリーが楽しめます。
実は子供時代に多くの人が感じるであろう感情や事件を誇張して書いている本でもあるため、意外にも共感したくなるような部分を見つけられるかもしれません。
自分の経験や記憶を振り返りながら、残酷な物語を読むという斬新な試みも楽しむことができるでしょう。
ソロモンの犬
オーソドックスなミステリーであると同時に、作者の丁寧な描写を楽しめる「ソロモンの犬」もおすすめ小説です。
大学生である主人公と友人4人の目の前で、大学の助教授の息子が事故で亡くなるという本作の展開には、いくつもの謎が残されています。
なぜ彼は事故に遭ったのか、事故の原因とされている犬「オービー」はなぜ彼を引きずるような行動を取ったのか。
キャラクター同士の交流といくつものミスリードを堪能しながら、謎解きの面白さを楽しんでみましょう。
この小説のキーとなるのは、やっぱり犬のオービーです。
ただミステリーの道具として登場するのではなく、小説の登場人物として存在するオービーには、読者として親しみやすさを感じられるでしょう。
オービーのおかげなのかこの小説はどこか爽やかで、ミステリーであると同時に青春小説のような一面を垣間見ることができるのです。
複数人のキャラクターが動くほどにその青春の中身は面白くなっていくので、道尾秀介のミステリーが持つまた別の一面を楽しむことができるでしょう。
カラスの親指
作者の本のなかではかなり爽快な作品である「カラスの親指」も、おすすめしたい小説となっています。
詐欺や借金の取り立てといった世の中のダークな部分を使いながら、仲間を募っていくような展開は見どころ抜群。
怒涛の伏線回収とそこに至るまでの道筋は、王道ミステリーとして、そして勢いのあるエンタメとしてとても面白いです。
カラスの親指が意味する部分も印象深く、「読んでよかった!」という気持ちにしてくれるでしょう。
スピード感で一気に押し進めてくれるので、とにかく読みやすい本がお求めならこちらの小説がおすすめです。
キャラクターの存在感もまたナイスであり、それぞれの境遇を考慮して読むことでより物語が深くなっていきます。
そこがまた道尾秀介らしい特徴として機能しているので、他の小説でファンになったのなら本作も要チェックですよ。
シャドウ
家族関係の縺れが事件に発展していくことが多い道尾秀介作品のなかでも、「シャドウ」は特に切なさに比重を置いた小説となっています。
2つの家族を視点に捉えながら進む展開は、最後に極上の謎から驚きと衝撃を引きずり出してくれるでしょう。
人間の精神という不確かなフィールドとそれを使ったミスリードは人を選ぶかもしれませんが、文体そのものはとても読みやすい小説だといえます。
作者特有のどろどろとした不気味な雰囲気も当然あるので、全体を通して道尾秀介を楽しめる小説としておすすめです。
ミステリーの醍醐味ともいえるどんでん返しの連続は、「読んだ甲斐」を読者に与えてくれます。
さらに本作は主人公が成長する要素もプラスされているので、より物語に没頭しながら読むことができるでしょう。
ラットマン
アマチュアのロックバンドを中心に謎が始まるミステリー小説「ラットマン」には、THE 道尾秀介といえるような展開が見られます。
練習していた音楽スタジオで突然起こった死亡事件は、読者と小説内のキャラクターたちを混乱と疑心暗鬼に陥れるでしょう。
4人のバンドマンの背景を読みながら事件の真相に迫っていく展開はドラマチックであり、独特の緊張感を演出してくれます。
ラットマンという言葉が意味すること、私たちが自然と行っている思い込みの心理、それらがつながっていく様子は圧巻です。
あらゆるシーンが読者をかき回してくれるので、最後までその謎の虜になれると思います。
予想するほどに裏切られる構成は本格ミステリーらしく意地悪で、そして最高にクールなものとなっています。
自分が小説の文章に気持ちよく騙されていることに気づけたとき、道尾秀介のすごさがわかるのではないでしょうか。
ラットマンは特に作者の感覚や見ている景色がトレースされている小説なのではと思えるので、その世界観を念入りにチェックしてみてください。
道尾秀介の読書がおすすめな理由
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気味悪さが「気持ち良さ」になる
道尾秀介作品の多くは、気味悪さや不快感を「上手に利用する」ことによって面白さを引き出しています。
そのため一見読むのがつらくなるような設定であっても、わかりやすくてテンポの良い文体も合わさって、意外なほどスムーズに楽しむことができるのです。
気味悪さすら気持ちよく読ませるこの技術は、道尾秀介をおすすめする1番の理由となるでしょう。
ただ怖い、ただ不気味で終わるのではなく、きちんとした恐怖の理由が小説の背景から読み取れるのもポイント。
読者はミステリーとして提供されるその背景にも集中できるので、小説の不気味さや怖さだけに押しつぶされるようなことはありません。
そんな絶妙な怖さのバランスが整っているからこそ、道尾秀介作品は普段ホラーやミステリーを読まない人にもおすすめしたい小説家となっているのです。
ちょっと怖い小説を読むきっかけに
ちょっとした怖さや不気味さが売りとなっている小説は、世の中にたくさんあります。
道尾秀介先生の本を読むことは、そういった数あるホラー系小説を手にするきっかけにもなるでしょう。
ホラーを専門に書いている作家でなくても、怖さを中心に添えた小説を出版しているというパターンは意外なほど多いです。
例えば江戸川乱歩、貴志祐介、小林泰三、恒川光太郎、乙一、恩田陸、湊かなえ、森見登美彦などなど、ゾクッとした怖さを与えてくれる作家は大勢います。
これらの作家には怖い小説を書くというイメージがないかもしれませんが、探してみるとホラー&ミステリージャンルに分類される本はたくさん見つけられるでしょう。
道尾秀介作品が気に入ったのなら、怖さを文章にできる他の小説家の本もきっと楽しく読めると思うので、ぜひ検索の範囲を広めてみることがおすすめです。
まとめ
道尾秀介先生の小説を読んだとき、その不気味な空気にいつの間にか魅了されている自分がいました。
その感覚は今も続いていて、ふとしたときに読み返したくなってしまうのです。
作者が持つ独特の雰囲気にがっつりとハマれたのなら、きっと私と同じように道尾秀介名義の小説がどれも面白く感じられると思います。
まずは1冊気になる本を読んでみて、そこからどんどん次の作品につないでみてはいかがでしょうか。