筒井康隆のおすすめ小説10選!歴史ある作品群はどれもが納得の面白さ!

作家として50年以上の時間を過ごしている「筒井康隆」先生は、私がこころから尊敬している小説家のひとりです。

カメレオンのごとく変化自在な文体と、新しい小説に挑戦し続けるその熱意は、いつまでも読者としてついていきたくなるものとなっています。

そんな筒井康隆先生の魅力を伝えるべく、これまでの経験からおすすめしたい小説10選をご紹介させていただきます。

いつ読んでも楽しめる本がたくさんあるので、まずはこの機に筒井康隆ワールドに触れてみてください。

筒井康隆とは?

筒井康隆のおすすめ小説10選

1960年にSF同人誌「NULL」を創刊し、その後「東海道戦争」によって鮮烈なデビューを飾った筒井康隆先生には、輝かしい経歴が数多くあります。

江戸川乱歩に認められた実力は世間にも浸透し、「虚人たち」が泉鏡花文学賞、「夢の木坂分岐点」が谷崎潤一郎賞、「ヨッパ谷への降下」が川端康成文学賞、「朝のガスパール」が日本SF大賞を受賞。

その他にも紫綬褒章の受章などさまざまな実績を持つ作家であるため、もはや小説家として伝説的な存在であるといえるでしょう。

「小説のジャンル」という枠にとらわれず、ミステリー・SF・コメディ・純文学とあらゆる作品を刊行しているのが特徴。

読めば読むほどその深い知識と見識に魅了され、脳の奥を刺激されるような快感を楽しむことができるでしょう。

そこそこ難解で専門的なことを書いているのに、文章はスラスラと読めてしまう作品ばかりなので安心しておすすめできます。

2019年の時点で85歳というご高齢ですが、いまだに雑誌等で対談や作品のお話を聞けるのもすごいところ。

今後も何か読者を驚かせてくれることを、たくさん提供してくれるのではと期待してしまいますね。

筒井康隆のおすすめ小説10選!

パプリカ

筒井康隆先生のなかでも特に有名であろう「パプリカ」は、当然ながらおすすめしておきたい小説のひとつです。

他人の夢に入りこんで心の治療を施す夢探偵パプリカが、現実と夢の世界を舞台にして難題に立ち向かうストーリーには、どきどきの展開が休まず押し寄せてきます。

とてもファンタジックな設定ですが、フォーカスが当てられる点はかなり現実的で生々しいものばかりなのが特徴。

人間の精神や夢という現象について深い考察が見られるので、他のエンタメ小説にはない論理的な展開が物語への熱中度を高めてくれるでしょう。

前半のがっしりとしたSF展開が、後半になるにつれてめちゃくちゃに壊れていく様子こそが、パプリカの真骨頂であるともいえます。

これほど文章によって世界観をぶっ壊すことに徹底した小説は、私の知る限りではなかなか見つからないですね。

カオスと表現するにふさわしい終盤を楽しむためにも、ぜひすべてのページをむさぼるつもりで読んでみることがおすすめです。

本作はアニメ映画にもなっているので、合わせてチェックしてみるのもいいでしょう。

文章とはまた違う映像の迫力で表現されたパプリカが、筒井康隆ファンには刺さると思いますよ。

旅のラゴス

読みやすさと不思議なほど澄んだ空気感が美しいSF小説「旅のラゴス」もまた、筒井康隆ワールドに入りこむ第一歩目におすすめしたい作品です。

旅をするラゴスの目を通して見る世界はノスタルジックな感覚に満ちていますが、そこでは当たり前のように転移や壁抜けができる特殊な人間が現れます。

そんな近未来を連想させる異世界を淡々と進み、人生の一部として「通過していく」ようなストーリーからは、現代ではなし得ないロマンチックな人生観が感じられるのではないでしょうか。

大きな事件や困難に立ち向かうというスタイルではなく、どこか達観した雰囲気が全体に漂っているため、ある意味安心して読み進めることができます。

短編集に近い構成でもあるので、最初は物語の中身に戸惑ったとしても、ちょっとずつ旅のラゴスっぽい独特の感覚に慣れることができるでしょう。

筒井康隆先生の作品のなかでは珍しく大人しい雰囲気を持つ小説である(それでも「らしい」ところは随所に見られますが)ため、前後に何を読んだかで印象が変わってくるかもしれません。

しかしだからこそ読んでおきたい魅力が間違いなくあるので、読書スケジュールに旅のラゴスは迷わず加えておきましょう。

家族八景(七瀬シリーズ)

超リアル路線のSFとでも言うべきか、現実に着地した状態で書かれる「家族八景」は、筒井康隆節を知るための必読書となるでしょう。

相手の思考を読み取ってしまう「テレパス」の能力を持った少女「火田七瀬」を主人公とし、その精神感応の能力があるゆえに引き起こしてしまう問題を描くのが本作の基本スタイルです。

美しい美貌を持つ七瀬に向けられる悪意や不快な感情が文章として読者にも伝達される様子は、小説だから実現できた芸当だといえるでしょう。

住み込みの家事手伝いとして働く七瀬の設定が効いていて、小説のなかではたくさんの「家庭」を見ることができます。

一般的な家庭に見えても、テレパスを持つ七瀬から見れば歪んでいて崩壊寸前に感じられるというその描写は、現実的なのにドラマチックな空気を演出してくれるのです。

人間の心の声を聞くだけでなく、その心の声から家庭の叫びまで感じ取ってしまうような構成からは、ただの超能力小説を超えた面白さが感じられます。

ブラックユーモアや社会風刺を感じさせる工夫が随所に見られるので、暗さや怖さよりもむしろ「関心」が先立ち、ぐいぐいと物語に引き込まれてしまうでしょう。

また本作は「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」に続く「七瀬シリーズ」の1作目でもあるため、超能力と七瀬の描くストーリーをさらに楽しんでいくことが可能です。

この小説はとにかく主人公である七瀬が魅力的であり、その考え方や突発的な行動に面白さを見出すことができます。

最終的に彼女がたどり着いてしまう世界を見るためにも、ぜひ3作すべての完読がおすすめです。

モナドの領域

「モナドの領域」を読んだとき、「哲学的思考を面白く語るには小説という体系が必要不可欠なのではないか」と考えたことを覚えています。

小説らしい技法であらゆる知識を溶け込ませた本作は、筒井康隆先生の才能と蓄積された経験がすべてつまっている傑作だといえるでしょう。

濃厚すぎるくらいに濃厚な小説となっているので、筒井康隆先生らしさを知るにはうってつけですね。

哲学、宗教学、政治学、歴史学、さらにメタフィクション的な知識が小説というフィールドで生き生きとしている様子は圧巻です。

最終的には人を選ぶものになると思いますが、導入がバラバラ殺人事件をにおわせる意味深なミステリー仕立てになっているので、スムーズにその舞台に入りこむことはできます。

後は読者という役割を持った自分が、この物語を牽引するGODをどう読み解くかがカギとなっていくでしょう。

どんなジャンルでも書ける作者が、ジャンルという概念を取っ払った作品でもあると思うので、これまで以上に何でもありの小説となっています。

だからこそ表現できた展開があるため、筒井康隆作品に少しでも惹かれた人は間違いなくチェックしておきましょう。

本作は2019年時点で最後の長編作品と宣言されていますが、そこは融通無碍に生きる筒井先生らしく、華麗に前言を撤回してまた新規の小説を書いていただくことを願ってしまいますね。

残像に口紅を

誰もやらないような設定や書き方に小説で挑戦するのも、筒井康隆先生の魅力であるといえます。

そのなかでも特に「残像に口紅を」は、面白さも含めて最高峰の「実験小説」だといえるでしょう。

本作は少しずつ言葉が削られ、存在が抹消されるというユニークでメタな設定を取った小説です。

例えば「あ」という言葉が消滅した後は、「あかい」「あまい」といった言葉は使うことはできず、「青山さん」といったキャラクターも存在そのものがなくなってしまいます。

そんな制約のなかで言葉を綴り、物語を成立させようとする様子からは、言葉の実験現場をのぞくような面白さを感じられるでしょう。

普段当たり前のように使っている言語がなくなり、その代わりに別の言葉が選び取られる展開には、あらためて日本語の奥深さを知らされるようです。

何を言うつもりだったのかを想像したり、自分ならどんな言葉を選ぶかなと考えたりするのも、面白く読むコツとなりますね。

本来小説には不適切と思われる言葉や表現に出会えることも、「残像に口紅を」という小説の魅力でしょう。

何も考えずに流し読みをすると面白さが伝わらない本になってしまうと思うので、この小説を読むのならぜひ辞書を片手に言葉と遊んでいくのがおすすめです。

虚構船団

何なんでしょうこの本は……。思わず一度立ち止まって考えを整理せざるを得なくなる「虚構船団」も、おすすめしたい小説のひとつです。

狂気に落ちた「文房具たち」の様子を描いた第一章、鼬(イタチ)が作った過去を振り返る歴史書のような第二章、そして文房具と鼬の戦争を書く第三章という構成で、虚構船団は出来上がっています。

計算のうえで行われるような混乱っぷりはまさに筒井節、そのなかにおいて次の展開を予想したりストーリーの整合性を考えたりすることは二の次となるでしょう。

いわゆる文房具や鼬を擬人化しただけの小説だと思って読むと痛い目を見るので、とにかく全方位からの刺激に備えてページをめくっていくことがおすすめです。

改行の少なさと一般的とはいえない展開から読みやすい小説ではありませんが、その困難さが生み出す疲労感はスポーツのように気持ちよく体に響きます。

初見は衝撃過ぎて何度か混乱を極めるでしょうが、振り返ってみれば「何だか面白かった!」といえる小説となるでしょう。

これに限っては最初に読む必要はないので、他の作品で筒井康隆先生の空気に慣れてから挑戦してみるのがおすすめです。

わたしのグランパ

単純明快な小説が好きな人にもおすすめできる筒井康隆作品といえば、「わたしのグランパ」が挙げられます。

とっても読みやすく、そしてわかりやすい、本当に虚構船団を書いた作者の本なのかと訝るような作風は、今後も新たな筒井ファンを生み出すことになるでしょう。

主人公である少女とその祖父(グランパ)との交流を書いた内容は、誰の人生にも何かを感じさせる魅力があります。

パワフルなグランパの存在感によって、小説はとにかく爽快で明白なものとなっていくでしょう。

癖の少ないジュブナイル小説であり中編という手ごろな文章量が魅力なことから、気楽にさらっと文章に触れたいときにはピッタリですね。

「パプリカ」「時をかける少女」「家族八景」など女性を主人公にした小説は筒井作品のなかにも多数ありますが、それぞれのキャラクターが作者の感性を引き出すような感覚があり、独自の世界感の形成に影響を与えているように思えます。

「わたしのグランパ」もまた、少女という視点だからこそ書くことができた小説のひとつだといえるでしょう。

その結果純粋なエンタメ小説として面白く作られているので、小説の読み始めにもおすすめしたい作品です。

夢の木坂分岐点

この本を読んで以来、筒井康隆先生を定期的に読み直す時間が私の人生には作られました。

夢と現実にあり得る可能性を書くような「夢の木坂分岐点」こそ、小説だからできることを改めて提示した傑作だと思います。

夢を軸に多次元的な世界を描き、何が現実として書かれているのかわからなくなるのがこの本の特徴です。

「わからなくなる」それこそがこの本を読んで感じるべき感覚であり、筒井康隆先生が常々書き続けてきた「虚構」の面白さであるといえます。

丁寧な案内板や誘導灯は存在せず、気づいたときには別の背景の下に置かれるような展開が続くので、読者はあっという間に小説のなかで迷子になることでしょう。

それでも文章は読者に対して優しく手を差し伸べることはなく、ただひたすらにその風景と世界の描写を続けていきます。

そのある種の身勝手さがまさに夢や虚構のなかにいるような、夢見心地な感覚を与えてくれるのです。

そんな突き放すような展開なのにこの本から目が離せないのは、筒井康隆先生が実現した読みやすい文章があるからだと思います。

小説のストーリーや展開がわからなくなっても、文章そのものは問題なく読み進めることができる。

それこそが「夢の木坂分岐点」の魅力であり、この独自の世界を成立させるポイントとなっているのでしょう。

まったく意味のないようで、考察するほどに何かを感じ取れる小説のなかからは、いくらでも自分の印象をサルベージし直すことが可能です。

まずは「わからないこと」と「意味不明さ」を楽しみつつ、その後少しずつその意味を考えて「夢の木坂分岐点」という小説を自分なりに完成させてみてください。

笑うな

筒井康隆先生の書くショート・ショート集「笑うな」も、おすすめの小説となります。

ブラックで、ユニークで、それゆえに印象深い小説が34編もつまっている本作は、気持ち良い読書を体験させてくれるでしょう。

短編集なので当然ひとつひとつの物語は短く、サラッと1編を読み終えることができます。

しかしその1編で終えられるかというと話は別、読みやすさに定評のある作者の文章が、続きを渇望させることになるかもしれません。

ドタバタコメディともいわれる「スラップスティック」作品が特に注目で、軽く笑ってしまえるような空気があります。

と思っていたら筒井先生の「悪さ」を感じられる作品にも出会えるため、とにかく雑多な色合いを楽しむことができるでしょう。

長編作品では書けない筒井先生らしさがたくさんあるので、ショート・ショートもチェックしておくことがおすすめです。

創作の極意と掟

小説の指南本は色々な作家が出していますが、「創作の極意と掟」は作者である筒井康隆先生の人柄が垣間見れることから、特に価値のある本だといえるでしょう。

本人の体験や考えを元に小説家になることをイメージさせるような内容は、小説家志望の人以外にもばっちりと響くものになっています。

堅苦しい講義や解説ではなく、執筆のついでに小説について語っているようなフランクな雰囲気があるので、まずは気楽に手に取ってみていただきたい1冊です。

エッセイ的な要素も見られるので、筒井作品の不可思議さにハマったのなら、最終的にたどり着いておきたい本となるでしょう。

「創作の極意と掟」の他にも「読書の極意と掟」「不良老人の文学論」「筒井康隆、自作を語る」など、小説について語った本はいくつかあります。

どれもが筒井ワールドの源泉を感じさせる内容となっているので、楽しく読みながらなぜこれほどの作品群が作られたのか想像してみましょう。

筒井康隆の読み方について

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どんな本でもまずは読み切る!

筒井康隆作品はどれもが独特のカラーを持っていて、難解なものもあれば簡単すぎるくらいに優しいものもあります。

しかしどんなスタイルにせよ読み切ってみなければその魅力は十分に味わえないので、まずはとにかく読み切ることを優先しましょう。

「夢の木坂分岐点」や「虚構船団」がそうですが、わからないことを楽しめるのもまた筒井作品の特徴です。

最初はわからないままでいいので、苦痛でないかぎりは最後の一行までページをめくり続けることがおすすめされます。

筒井康隆にハマったらおすすめしたい作家

筒井康隆先生の小説はあらゆる分野に接触しているため、「自分はこのジャンルが好きだったんだな」と感じることもあるかと思います。

そういった感覚を参考にして次に読む作家を探せるのも、筒井先生の作品が持つ魅力となるでしょう。

例えば「江戸川乱歩」「星新一」「小松左京」「川端康成」「町田康」といった作家は、筒井康隆先生と近い感覚を持っているため、その後の読書におすすめできます。

筒井康隆作品にハマったのなら、ぜひそれをきっかけに色々な作家も合わせてチェックしてみてください。

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まとめ

筒井康隆先生の本は面白いものばかりなのですが、どんな本であるのかわからないまま選ぶと、イメージとのギャップに困ることがあるかもしれません。

まだどの本も読んだことがないのなら、こちらのおすすめ10選を参考にして興味が持てる1冊を見つけてみてください。

深層心理まで届くような言葉のパワーは、日本語の小説がいかに可能性に満ちたものであるのかを読者に教えてくれるでしょう。

この記事を書いた人

syunkin999