現代ミステリーにおいて独自の地位を確立した小説家「森博嗣」は、もうほんと単純に面白い本を量産してくれる名作家となっています。
最近はアニメ化などでさらに知名度が上がったのか、おすすめ本を聞かれる機会が多くていちファンとしてとっても嬉しいですね。
理系の知識を活用した本格ミステリー、ずっと目で追いたくなるようなキャラクターたち、長期シリーズによって紡がれる物語の存在感。
そんな魅力だらけの森博嗣作品のなかから、今回は改めておすすめしておきたい小説を10冊ご紹介します。
ミステリー、SF、ファンタジー、コメディといったひとつの枠に収まらない作品たちから、この機にお気に入りのシリーズを見つけてみていただきたいですね。
森博嗣のおすすめ小説10選!
すべてがFになる(S&Mシリーズ)
圧倒的なインパクトによって引き込まれる森博嗣の名作小説「すべてがFになる」は、とにかく最初におすすめしておきます。
王道でありながら予測不能で大がかりなトリック、それでいてストンと落とされるような展開は、ミステリーを読むという楽しさを再認識させてくれるはずです。
単純にトリックを追うだけでなく、キャラクターの心境や考え方を想像して物語の深みにはまっていくような読み方もできるので、何度読んでも面白い本となっています。
専門的な用語や理系ならではのロジックなどが多数見受けられますが、小説としての展開がそれにひるませる暇を与えないほど魅力的です。
「理系ミステリーと」評されることが多い作品ではありますが、特に気負うことなく誰でも読み進められると思います。
大学の准教授である犀川創平が探偵を務め、研究室の一員である西之園萌絵が物語を引っ張るこの形は、「S&Mシリーズ」として長く続いていくのも特徴。
「冷たい密室と博士たち」「笑わない数学者」「詩的私的ジャック」「封印再度」などなど、2人が活躍する小説は他にもたくさんあるので、続けて読破していくのもおすすめです。
すべてがFになるには、おしゃれなレトリックや謎のハマり方、キャラクターの存在感など森博嗣が持つすべての魅力が詰め込まれています。
「森博嗣を読むならどれがいい?」と聞かれたら、「まずはこれ!」と即答できるほどに作者を表現した名作となっているので、とにもかくにも一読してみてください。
黒猫の三角(Vシリーズ)
読みやすさやキャラクター性を重視するのであれば、「黒猫の三角」を最初に選ぶのもおすすめです。
主人公である瀬在丸紅子の動きを追うように読み進めているうちに、気づいたときにはガッチリと物語の構想に夢中になれる魅力的な小説となっています。
登場人物たちの掛け合いや思想のぶつけ合いも面白く、単調さを感じることなく謎の解明まで進むことができるでしょう。
そして本作はなんといっても殺人という事件に関する考察が特徴のひとつであり、それだけで読む価値のある本だといえます。
殺人事件における「動機」とは何なのか、私たち読者、もしくはリアルな世界での生活者は、その動機をどう捉えればいいのか。
ミステリーをエンタメ視点で書くだけではなく、それ以上の深部にまで手を伸ばしている作品なので、きっと心に残る小説になると思います。
本作は森博嗣の「Vシリーズ」1作目としても有名で、「人形式モナリザ」「月は幽咽のデバイス」「夢・出逢い・魔性」などにつながる物語として作られています。
進むほどにキャラクターの魅力が色濃くなっていくため、シリーズ小説ならではの面白さを堪能できるでしょう。
四季 春(四季シリーズ)
S&MシリーズとVシリーズを読んだのなら、「四季シリーズ」も欠かさずチェックしておきたい作品となります。
相互作用によって、それぞれの作品がさらに面白くなるでしょう。
ネタバレが怖いのでぼかしますが、本作はとあるキャラクターの「完成」に焦点を当てた小説となっています。
森博嗣を語る上で欠かせないキャラクターの背景がわかるので、作者の作品をたくさん読むほどに魅力的な小説となるでしょう。
「天才」という特性を持ったキャラクターを書くのは、小説でもマンガでも難しいものです。
ちょっとしたほころびや油断が、「本当にこの人物は天才なのか?」という疑問を読者に与えてしまうので、使い方によっては作品をチープにしてしまいます。
しかし四季シリーズで書かれる天才は、読者が納得の天才っぷりを見せてくれます。
常人では理解不能なレベルの思考で物語を引っ張る四季シリーズのようなスタイルは、森博嗣先生にしかできない芸当かもしれませんね。
上記シリーズのキャラクターも多数登場するので、春、夏、秋、冬の時系列をぜひ読み進めてみてください。
φは壊れたね(Gシリーズ)
「Gシリーズ」の開幕を飾った作品である「φは壊れたね」は、森博嗣作品のなかでもよりライトでスパッとした切り口が魅力となっている小説です。
S&Mシリーズ、Vシリーズ、四季シリーズとつながる物語であり、多くのキャラクターがゲスト的な立ち位置で登場します。
成長した彼ら彼女らの活躍が見れることから、ファンブック的な意味合いが強い作品だといえるかもしれません。
基本的に一冊の量が少なく、まっすぐに真相へと向かっていくのが特徴。
それでいて内容は地に足がついた王道ミステリーであるため、気軽に読むのにうってつけです。
とはいえやはりS&M、V、四季を読んでいる方が楽しめると思うので、これらのシリーズのお供としてチェックしていくのがおすすめです。
女王の百年密室(百年シリーズ、M&R series)
西暦2113年の未来、女王が統治する楽園のような国で起こる殺人事件を主軸とした「女王の百年密室」は、真骨頂でありながら新しい世界観を作った森博嗣の名作です。
ひとつの世界を構築したからこそできる哲学的な思想や表現、そこで起きるからこそ生まれる事件の意味は、本作でしか楽しめない要素なのではないでしょうか。
ヒューマノイドである自立機械ウォーカロンや数々の未来的感覚が、小説の中身を深いSF・ファンタジーへと変えてくれています。
そのためミステリーとして読むよりも、どちらかといえば未来を舞台にした「森博嗣ワールド」を楽しむつもりで読書をすることがおすすめです。
主人公であるサエバ・ミチルの過去や心理を取り扱った描写も魅力的で、小説内に形成されている社会での生き方をリアルに考えることができます。
パートナーであるウォーカロン「ロイディ」との組み合わせも面白く、未来という世界観をスムーズに読者に印象付けてくれるでしょう。
本作もまた、森博嗣が書く長編シリーズとのつながりが垣間見れる小説です。
特に「Wシリーズ」を読むのであれば欠かせない本となるので、まずは1作目の女王の百年密室をチェックしてみてください。
彼女は一人で歩くのか?(Wシリーズ)
百年シリーズで登場したウォーカロンを軸にしたSF「彼女は一人で歩くのか?」も、森博嗣が好きなら迷わず読んでおきましょう。
人間と区別がつかないほどの「生命」を持ったウォーカロン、それは果たして人間とどう違うのか、識別することが必要なのか、そして人工細胞によって寿命を変える人類はこれまで規定してきた人類と同じなのか、そんなSFらしい問題が見られる小説です。
「Wシリーズ」として続く一連の物語からは、多くの哲学的思考を楽しむことができるでしょう。
冒頭を読めばわかる通り、本作からはフィリップ・K・ディックの名作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の雰囲気を感じ取ることができます。
既に読んでいる人はそのままに、もしまだ未読の場合は、ぜひWシリーズのためにディックの作品をチェックすることがおすすめです。
本作は百年シリーズからの流れが見られる一方で、その他の森博嗣作品とのつながりも示唆されています。
○○○博士の登場には、「おっ!」と思わされるファンも多いのではないでしょうか。
もちろんWシリーズはそれ単体で読んでも十分面白いので、森博嗣の書く本格SFに興味があるのなら必読です。
スカイ・クロラ(スカイ・クロラシリーズ)
語らない良さというか、深い深い行間を読み解くような面白さを楽しめるのが、「スカイ・クロラシリーズ」です。
与えられない情報が多く、淡々と書かれている印象が強いですが、それが逆に世界の雰囲気を着色しているような、そんな不思議な小説となっています。
無駄な要素を排除しつくした文体は読みやすいだけでなく、独自の世界や思想を裏付ける理由にもなっているのではないでしょうか。
人を選ぶ小説ではあると思いますが、スカイ・クロラにしかない魅力がたしかにあるので、森博嗣作品のひとつとしてチェックすることをおすすめします。
キャラクターの心情を楽しむか、文体の美麗さを楽しむか、戦闘機の描写や世界観を楽しむか、それらはすべて読者の自由です。
まずは無心のままページをめくって、自分が小説のどの部分に心を動かされるか確かめてみるのもいいですよ。
ちなみに戦闘機の存在が強いせいか、読んでいるとサン=テグジュペリの「夜間飛行」や「人間の土地」を思い出すのですが、わかる人いませんか?
探偵伯爵と僕
「探偵伯爵と僕」を読んだとき、「森博嗣ってすげー!」という非常に直球な感想が出てしまいました。
必要であればどんな雰囲気にも小説を装飾できる作家なんだと、これを読めばあらためて実感させられるでしょう。
本作はいわゆる児童小説に該当する本であり、主人公である「僕」馬場 新太が探偵伯爵であるアールと出会い、友人の失踪事件を追うというスタイルを取っています。
全体的に柔らかく、良識的な空気が漂う作品ですが、そこは本格ミステリーを書いてきた森博嗣、読者をどすんと突き落すような仕掛けを強い衝撃と共に与えてくれます。
子供向けに書いたというよりも、「子供向けにすることで書けた」小説だといえるので、他シリーズの読者でも存分に謎を楽しむことが可能ですよ。
馬場 新太くんが感じる「なぜ?」に応える探偵男爵という構図は微笑ましく、それと同時に物語が進行していく様子は読みやすさに直結しています。
この2人の会話が物語に厚みを与えてくれるので、意外なほどミステリーらしい内容を楽しめるでしょう。
本作はシリーズ化していない、かつ他の作品と関連性がないので、純粋に単独作として読むことができます。
森博嗣の新たな一面を感じられるため、別のシリーズ小説を読んでいる人にこそおすすめしたい作品です。
喜嶋先生の静かな世界
学問に打ち込む主人公と喜嶋先生の交流から、人生における生き方を考える「喜嶋先生の静かな世界」は、森博嗣の隠れた(?)名作だといえるでしょう。
ひとつの物事に打ち込む研究者という存在が、普段どのような生活をし、そしてどれほど美しく生きているのかを知れるような本です。
研究者の日常を読み解くような展開は、私のように研究職とは縁もゆかりもない人間でも楽しく読めるほどに刺激的で眩しいものになっています。
羨ましいと同時に、どこか寂しい感じもする喜嶋先生は、何かに没頭する人の心を静かにノックするような存在として感じられるでしょう。
何かに夢中になったことがある人や、将来を考える学生にとって本作は、胸を打つような小説になると思います。
こちらの本は森博嗣先生の自伝的な内容であるそうですが、どこまで筆者の目に映ったものが小説として書かれているのかはわかりません。
そんな曖昧さが小説をとても綺麗で、そして温かなものにしてくれているようにも感じます。
面白さを伝えるのがとても難しいのですが……「とにかく読んでみてほしい」とおすすめできる本なのはたしかです!
工学部・水柿助教授の日常
作者の体験や思考が小説風に仕上がっている「工学部・水柿助教授の日常」は、ファンとして必見の小説となっています。
いわゆるエッセイや私小説のような内容で、日常にあるミステリーを拾い上げていくような展開が特徴的。
ユーモアでコメディタッチに作られているせいか、読後は作者と距離が縮まったような気になって楽しいです。
とにかく自由に書いたという感じが徐々に表れてくるので、より自然で装飾されていない森博嗣を体感することができるでしょう。
練りに練った構成や世界観を楽しむものではなく、勢いとニュアンスで書かれた「筆跡」を感じる工学部・水柿助教授の日常のような小説は、今時かなり貴重な本になると思います。
小説家の「遊び」を読む感覚はとても愉快で、楽しい体験になることでしょう。
森博嗣の小説はこう読んでほしい!
小説のシリーズにはこだわらない?
こちらでおすすめした本の多くがそうであるように、森博嗣の小説はかなりの数がシリーズ化されています。
しかしシリーズや出版された順番にこだわらずに、まずは好き勝手に読みあさってみることがおすすめです。
それぞれのシリーズにはそれぞれの良さがあるため、偏った読み方をするよりも、その魅力をひとつずつ体験する方が森博嗣の世界観を楽しみやすいでしょう。
各シリーズの一作目は上記にタイトルを記載していますので、とりあえずそれぞれの一巻を手に取って、そこからどのシリーズに進むか判断してみるのもいいですね。
ほとんどの小説が一冊のなかで物語を完結させているため、順番通りに読まなかったせいで困ることはありません。
「シリーズだから順番に読まないと……」といった意識は捨てて、純粋に面白そうな本をかいつまんでも大丈夫ですよ。
関連要素を確認してから読み直すのも楽しいのでおすすめ
森博嗣の小説を読んでいると、「こんなところであのキャラが!?」「これはもしかしてあそことつながりが!?」といった展開に出会います。
そういった関連要素を確認したのなら、また改めて該当する小説を読み返してみるのもおすすめです。
知っているからこその面白さが新たにプラスされているので、より物語を深く楽しむことができるでしょう。
特にキャラクターが再登場するパターンは、元の小説を知っている方が断然感情移入して読めます。
S&Mシリーズなどはなるべくこまめにチェックして、物語全体の広がりを味わってみるといいでしょう。
すべてがFになるを読んでから四季シリーズを読み、さらにWシリーズへとつなげていく。
こういったつながる読書こそ、森博嗣を読む醍醐味になるでしょう。
まとめ
森博嗣の小説の多くは、とにかく奥行きのある内容によって読者を取りこんでくれます。
それは作品単体の面白さはもちろんのこと、シリーズとしての魅力を引き立ててくれるので、長く付き合っていける作家となることでしょう。
どの作品から読むか、そして次はどの本を選ぶか、そういった「選択」が楽しい小説家でもあります。
森博嗣読破スケジュールを立てて、この機にその世界を余すことなく味わってみてください。