突然ですが、私にとって「江戸川乱歩」は大好きな作家の1人です。
子どもの頃に児童書で出会ってから今に至るまで、飽きることなく楽しませてもらっています。
何歳になっても面白いと思える乱歩の不思議な魅力、それはきっとたくさんの人に伝わるものなのではないでしょうか。
そんなわけで今回は、(たぶん)全作品を読破している私が、勝手に「江戸川乱歩究極のおすすめ小説10選」をご紹介したいと思います。
江戸川乱歩は決して過去の作家ではなく、今後も読み継がれていくであろう名作の宝庫となっているのです。
読書のための本を探しているのなら、ぜひこの機に乱歩ワールドを体感してみてください。
ズバリ!江戸川乱歩の魅力とは?
「乱歩だから許される」感覚
江戸川乱歩の作品には、その世界でしか描かれない、その筆からしか生まれ得ないような表現方法がたくさんあります。
そういった「乱歩だから許される」数々の感覚こそ、江戸川乱歩作品の魅力だといえるでしょう。
例えば明智シリーズで頻繁に描かれる逃走劇などは、他の作品で見せられても滑稽にしか感じられないと思います。
江戸川乱歩ならではの文体と勢い、そして全体に染み込んでいる空気があってこそ、それらの表現は「許される」ものになっているのでしょう。
当然ながらそれらは江戸川乱歩の小説でしか読めないため、体験するには実際に手に取ってみるしかありません。
そんな限定された魅力があるからこそ、江戸川乱歩の小説はおすすめしたくなってしまうのです。
見え隠れするコミカルさ
江戸川乱歩の作品はホラーやミステリーが中心となっているため、ときには毒々しさに満ちた雰囲気が展開されていきます。
しかしただ恐ろしさや不気味さを提供するのではなく、ところどころにコミカルさが見え隠れしている点もまた、江戸川乱歩の魅力だといえるでしょう。
そのコミカルさは文体から直接感じられることがあれば、登場キャラクターの言動から実感されることもあります。
常にどこかにコミカルな要素が組み込まれていることが、読後のすっきりとした解放感につながっているのかもしれません。
この独特のコミカルさは、決して作品の恐怖を中和したり、つまらないものにしたりすることはないのです。
あくまで1つのスパイスとして機能しているので、作品をチープに感じることなく読み進めることができるでしょう。
親密な語り口による読みやすさ
江戸川乱歩の作品は総じて読みやすい印象がありますが、それは作者の語るような文体がポイントとなっていると考えられます。
作者も読者と一緒に物語を楽しんでいるような親密さが垣間見れるので、自然と小説の内容に没頭することができるでしょう。
ただテンポが良い、スピード感があるといった表面上のテクニックだけではなく、親密さという点を取り入れた作風は、江戸川乱歩ならではの魅力となっています。
普段本を読まない層でも楽しめるのは、そういった作者に近い視点が感じられるからでしょう。
そのため江戸川乱歩の本を、読書デビューのきっかけとすることもおすすめです。
短めの物語も多いため、特に以下を参考にまずは1作品を読み進めてみてはいかがでしょうか。
江戸川乱歩のおすすめ10選!
押絵と旅する男
「押絵と旅する男」は個人的ナンバーワンの小説であり、同時にもっと多くの人に読んでいただきたい作品です。
乱歩作品が持っている不気味さ、不可思議さ、神秘さ、そして美しさのようなものがとことんまで詰め込まれています。
とりあえずこれ1作を読めば、江戸川乱歩の基本を満喫することができるのではないでしょうか。
日常的な場面と不思議な世界が境界なく混ざりあっていくような感覚は、ぞっとすると同時にとても魅力的な雰囲気を見せてくれます。
おそらく読む人によってその感想が変わるような本になると思うので、ぜひ兄弟の心情を深くまで推察してみることをおすすめしたいです。
- 作者: 江戸川乱歩,しきみ
- 出版社/メーカー: 立東舎
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孤島の鬼
怖かった。ぞっとしました。
「孤島の鬼」の感想は、いまだにこういった一言で済ませてしまえます。
それだけインパクトのある展開となっているので、乱歩の長編小説を読む気があるのならぜひチェックしていただきたい。
江戸川乱歩は怪奇・猟奇的な小説を多数執筆している作家ですが、この作品は特に読み進めるなかで少しずつ浸透していくような和製ホラーを体感できます。
できるならある程度の時間を確保して、一気に読破してしまうことをおすすめしたいです。
心理的なグロテスクさが感じられるため、若干苦手な人もいるかもしれません。
しかし孤島の鬼はただのホラーではなく、ミステリーらしいトリックやキャラクターの掛け合いが多分に含まれているため、エンタメとしても十分に楽しめるようになっています。
乱歩の雰囲気に慣れてきた頃にでも、ぜひチェックしてみてください。
- 作者: 江戸川乱歩
- 出版社/メーカー: 東京創元社
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白昼夢
江戸川乱歩はもちろん、これまでに多くの作家が「生活の中にある恐怖」を書いてきました。
「白昼夢」はそういった「身近な恐怖」を描いた作品のなかでも、群を抜いて密度の高い小説だといえるでしょう。
小説で描かれているシーンでは、特別に大きな事件は起こりません。
ただ1人の男が演説をしていて、それを聞く大衆を尻目に、読者と立ち位置を同じとする「私」がいるだけ。
真相のわからない話、それに対する大衆の反応、それらが徐々にページを毒していく感覚。
読んでいくうちに、何も起こっていない普段の生活の中に、じんわりと恐怖が浮かび上がる瞬間がわかるのではないでしょうか。
日常にこそ本当の恐怖が溢れていることを、再認識させてくれるような作品となっているのです。
江戸川乱歩のホラーがどうして成立しているのかが、これを読めばきっと理解できると思います。
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魔術師
江戸川乱歩の代表作といえば「明智小五郎シリーズ」ですが、なかでもこちらの「魔術師」は特に読む価値のある本であると思います。
ホラーや幻想的な空気とは違い、アクションやラブドラマ、強引ながらも大どんでん返しに通じていくストーリーが本作(というかシリーズ通して)の魅力です。
特にわかりやすい展開で物語を読ませてくれる「魔術師」は、明智小五郎の面白さを知る良いきっかけとなるでしょう。
また本作はその後のシリーズにつながる分岐点ともいえるので、これから明智小五郎シリーズを読み進める予定なら必読の書でもあります。
中編小説ですがとにかくさらっと読んでいけるため、江戸川乱歩入門としてもぜひ。
- 作者: 江戸川乱歩
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心理試験
こちらも明智小五郎が出演するシリーズ、そのなかでも初期作品に当たる小説となっています。
第1作目である「D坂の殺人事件」とどちらをおすすめするか迷いましたが、個人的には「心理試験」の方が面白く読めるのではないかと思っています。
犯人視点で展開されるため、ミステリーの醍醐味である「雰囲気」や「臨場感」といった要素は抜群。
今読んでもまったく色あせない、江戸川乱歩らしい推理小説だといえるでしょう。
そして明智小五郎が敵として出てくることが、この小説を盛り上げる大きなポイントになっています。
まだ素人探偵時代ではありますが、犯人が少しずつ追い詰められていく様子を見るのは、読者という立場であってもドキドキさせられてしまうでしょう。
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屋根裏の散歩者
犯罪者心理を書いた作品としては、「屋根裏の散歩者」が心理試験以上に江戸川乱歩の代表作となっているでしょう。
表題通り「屋根裏」を「散歩する」男を視点とした本作は、犯罪小説でありながら人間の暗部を描いている奥深い小説のように感じられます。
その後の乱歩作品でもたびたび見られる「のぞきこむ」という形態を知るためにも、この短編は間違いなく読んでおきたいですね。
トリックどうこうよりも、屋根裏を散歩するという異常性と、それを犯行に結びつける衝動性こそ、この作品の肝になっています。
文章のなかに書かれているものだけでなく、その裏側を想像させる恐ろしさを、ぜひ繰り返し読んで体感してみてください。
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人間椅子
わずかなページで目まぐるしく物語が展開する「人間椅子」は、江戸川乱歩の傑作の1つだといえるでしょう。
これもまた生活感のあるホラーとでもいいましょうか、読み終わった後つい部屋にある椅子やその他の家具に目がいってしまうかもしれません。
無理のある設定なようで、どこかリアリティのある恐怖は、江戸川乱歩ならではのものですね。
個人的には、最後に救いのように提示されるオチからも、どこか不気味さを勘ぐってしまいます。
ミステリー入門としてもおすすめできるので、短編から読み始めたいときは「屋根裏の散歩者」か「人間椅子」をチェックしてみましょう。
- 作者: 江戸川乱歩,落合教幸
- 出版社/メーカー: 春陽堂書店
- 発売日: 2015/03/20
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芋虫
これもまた、怖い。
それもただのホラー的な怖さではなく、時代が作ったその空気やキャラクターたちの考え方が、とてつもなく人間性に溢れているからこその怖さがあります。
人間の機能をほとんど失った中尉の心情と、それを支える(?)ことに執着する時子の心情、それらが悪意以上の何かに昇華していくような過程は、悪夢的とも表現できるかもしれません。
読み込めば読み込むほどにキャラクターの心や感情を想像しないわけにはいかなくなるので、怖さの質が変わっていくのも面白い。
ところどころ「目」が強調されるのも恐怖心を煽るポイントとなっていて、頭のなかに強いイメージが残るかもしれません。
おすすめの1冊ではあるのですが、一応、閲覧注意ということは伝えておきますね。
- 作者: 江戸川乱歩
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パノラマ島奇談
この小説に関しては面白いどうこうの前に、乱歩の書く世界観を楽しむためにも1度は読んでもらいたいです。
江戸川乱歩の小説には独特の美的感覚を持つ登場人物が多いですが、それを1番色濃く、そして丁寧に扱っているのがこの「パノラマ島奇談」だと思います。
主人公である人見廣介が描いた理想郷、それがいかに狂気を持っているかを書くことに熱中した本作は、ある意味で読者を置いてけぼりにしている作品だといえるかもしれません。
しかし特殊な恐怖を書くことに挑戦した乱歩の想像力の痕跡は、一読の価値があるものとなっています。
後に「大暗室」などにもつながっていくその創造性は、他の作家がマネできないものだといえるでしょう。
ちなみにこの物語の肝は、最後の最後に出てくる北見小五郎にあると私は考えています。
やたら冷静な目を持った、ある種この小説には不似合いともいえる人物をなぜ終盤に投入したのか、色々想像したくなる気がしませんか。
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白髪鬼
日本きっての翻案作家である黒岩涙香の「白髪鬼」を元にしたこの作品もまた、江戸川乱歩らしさを体感するのにうってつけの本となっています。
復讐を題材とした物語ですが、そこにブレンドされる乱歩節がいい塩梅に混ざり合って、特徴的なシーンをいくつも演出しているのです。
からくりを使ったり洞窟に追い詰めたりといった復讐方法は、まさに江戸川乱歩ワールドの真髄だといえますね。
単純に1つの作品としても面白いですが、原案となっている黒岩涙香版の白髪鬼と読み比べるのもおすすめです。
乱歩という作家がいかに特徴的な存在であるのかが、その文体と物語の変化からすぐに理解できると思います。
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江戸川乱歩を読むポイント・疑問点
江戸川乱歩は子供向けなのか?
そのわかりやすさや突飛な設定から、「江戸川乱歩は子供向けの小説」というイメージを持つ人も多いようです。
しかしそれは正確な表現ではなく、「江戸川乱歩は子供でも読める小説」が1番近い形容になるのではないでしょうか。
たしかに少年探偵団シリーズや明智小五郎シリーズは、本格推理小説とはかけ離れた位置にあります。
とはいえそれらはエンタメ小説として、大衆小説として素晴らしいクオリティを持っているといえるでしょう。
子供でも読みやすく、大人になってからでも楽しめる、そういった幅の広い小説を書いているのが、江戸川乱歩という作家なのです。
そして上記でたくさんおすすめしてきたように、江戸川乱歩には怪奇的で猟奇的な作品も多数あります。
大人になればより楽しめるラインナップが用意されているので、長期的に楽しむことができるでしょう。
今から読むなら傑作選・名作選などから
江戸川乱歩の小説はさまざまな出版社から色々な形で販売されているので、何を手にすればいいかわからなくなるかもしれません。
そんなときはとりあえず、「傑作選・名作選」となっている本をおすすめします。
今でいえば新潮社の文庫本が、入門としては最適となるでしょうか。
乱歩の代表作がまとめられているので、1冊を読み切ればそれなりに作風を理解することができます。
短編から中編が収録されているため、気になる作品だけをピックアップしやすいのもポイントですね。
特にこれといった1冊がないときは、傑作選・名作選を読んでみてください。
作品の順番に縛られないで
江戸川乱歩の作品数はかなり多いので、すべてを読み切るのはなかなか難しいと思います。
そのためもしこれから乱歩に挑戦するのなら、作品の順番は気にしないで、好きな作品を自由に読み進めることをおすすめしたいです。
特にシリーズものを読むからといって、1から順にたどっていく必要はないと覚えておいてください。
乱歩の作品はどこから読んでもその世界に入りこめるようになっているので、そこまで内容の前後を気にする必要はありません。
後から過去作を読むことで、また違った発見の仕方を楽しむこともできるでしょう。
順番に縛られず直感的に作品を選ぶことが、江戸川乱歩を知る1つの秘訣になることをご紹介しておきます。
まとめ
江戸川乱歩が文学の世界から去って既に50年以上経ちましたが、その作品の輝きは健在です。
いつ読んでも、誰が読んでも面白いと思わせる作家は決して多くないので、興味があるのならこの機にチェックしてみてください。
圧倒的な存在感と表現力、そして今の文学界では撥ね付けられるような内容をふくんだ作品の数々を、読まずに終わるのはもったいないです。
まずは1冊、それから2冊、一歩一歩江戸川乱歩の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。