村上龍という芸術を読む!おすすめしたい作品を5つ紹介!

村上龍という芸術を読む!

小説家「村上龍」の作品に含まれている成分は、本当に多量で多彩なものとなっています。

そのためときには刺激が強すぎて、読み進めるのが難しくなることさえあるかもしれません。

しかしそんな劇薬のような村上龍作品は、ときとして読書に新天地を切り開き、その後の考え方や読み方に明確な変化をつけてくれることもあるのです。

未使用のままでいるのはもったいないため、ぜひこの機に村上龍を服用してみることをおすすめします。

とりあえず特に効くであろう作品を5つご紹介するので、村上龍の世界観にどっぷりとハマりこんでみてはいかがでしょうか。

村上龍のおすすめ作品5選!

限りなく透明に近いブルー

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

タイトルだけでおつりがくるほどの芸術性、1度読んだら忘れられないほどのインパクト、村上龍といえばこの作品といった重要性。

そんな名作「限りなく透明に近いブルー」は、村上龍のなかでも当然おすすめしたい小説の1つです。

本の薄さに騙されてライトな読み物として手に取ると後悔するほどの密度がそこにはあり、初見は緊迫感と不可解な浮遊感に驚かされることでしょう。

衝動的な文章というか、起承転結などを放棄した内容がこちらの思考をぐるぐるに巻き付けていくような感覚は、この作品以外では体験できないものかもしれません。

この混濁した世界をどのように読むか、どのように自分のなかで消化するかといったことを楽しめれば、村上龍の良さが見えてくるでしょう。

村上龍のデビュー作ということで最初に読んでしまいがちですが、個人的にはある程度その他の本を読んで免疫をつけてからの読書をおすすめします。

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)

歌うクジラ

歌うクジラ(上) (講談社文庫)

近未来SFとしての完成度が既にとんでもないレベルでありながら、哲学的な世界にまで踏み込んだ名作「歌うクジラ」

すべてが統制されたディストピアを1人の少年の視点から「観察」していく今作は、そのフィクションの世界を未体験であるはずの読者がリアリティを感じてしまうほどにリアルです。

「不老不死になった社会」をただ単純にシミュレートするのとはちがい、本作はあえて人間を悪魔的な誘惑のなかに落とし込んでいるような印象を受けます。

そういった状況下ではどのようなことが起きうるのか、どんなパワーが発揮されるのかという、実験的な小説として機能しているのが魅力だといえそうです。

普通はあり得ない不幸や絶望と対決する主人公という図式は小説において珍しくありませんが、ある意味現実の世界をモチーフにしたものは飽和的というか、限界が来ているような気がします。

だからこそ歌うクジラのようなとことん非現実で絶望的な世界観のなかで生きる主人公たちの姿が、ものすごく新鮮で面白く映るのではないでしょうか。

暴力的なだけでなく、限りなくグロテスク(たぶんあえて)に描写されるストーリーに根負けする人も多いかもしれませんが、何とか読み進めてもらいたいですね。

少年の冒険的視点や、徐々に世界の秘密が明かされていく感覚だけでも十分に楽しめるので、挫折しそうなときは中身を単純化して読んでみるのが1つのコツかもしれません。

歌うクジラ(上) (講談社文庫)

歌うクジラ(上) (講談社文庫)

コインロッカー・ベイビーズ

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

村上龍の書く世界は、初見でもすごく作りこまれていることがわかります。

そんな世界を複数の主人公たちによって描写する「コインロッカー・ベイビーズ」も、絶対に読んでほしいおすすめの作品です。

普通の子供としてスタートできなかった2人の少年が、少しずつ日常に汚染され、そして浸食し返していくような展開は本当にどきどきしますね。

こちらはむしろ現実路線ともいえるような内容となっていて、文章そのものが丁寧であり、小説としても読みやすい作品となっています。

1番最初に読むのであれば、こちらの小説が入り込みやすいといえるかもしれません。

村上龍らしい毒々しさも当然ありますが、その毒を活かすために挿入されたかのような爽やかさや希望も本作の特徴で、個人的には青春小説の一面もあるのではと思っています。

まったく異なる特性を持った2人がどう生きるのかに注目するだけでも面白いため、ワイルドでバイオレンスな青春を読み進めてみてはいかがでしょうか。

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

五分後の世界

五分後の世界 (幻冬舎文庫)

もし村上龍ワールドに突然放り込まれたらどうなるか、そんな可能性を書いたような小説が「五分後の世界」です。

物語の始まりで一気に引き込まれ、中盤でその世界に腰をおろさせ、終盤で冷徹にも突き放される、そんな小説のお手本のような作品となっています。

日本のIFを書いているものなので想像力をフル回転させれば、よりリアルにその内容を感じられるかもしれません。

不穏な空気を閉じ込めていた蓋を開けてしまったような、見ないで済んだはずのものを覗いてしまったような感覚が、緊張感のある読書を楽しませてくれるでしょう。

途中のアクションシーンは賛否が別れそうですが、(私もちょっとしんどかったです)その勢いや派手さもこの本の魅力。

どうしてこのような戦闘シーンが必要だったのかを考えるのも、面白い読み方の1つとなるかもしれません。

五分後の世界 (幻冬舎文庫)

五分後の世界 (幻冬舎文庫)

69 sixty nine

69 sixty nine (文春文庫)

「村上龍はどうしてこういった小説を書くのだろう?」と考えたことがありますが、この本を読んだことで「なるほど」と思えました。

作者の自伝的な内容となっている「69 sixty nine」は、村上龍のルーツを知るうえで読まなくてはならない小説となるでしょう。

内容としては青春小説でありますが、ただ自身の過去をなぞるようなものではなく、文体をコミカルにしたり文字を大きく装飾したりといったかなり特殊な本となっています。

そこにあるエネルギーの多さと、底抜けの明るさは本当に楽しく読めるので、この本との出会いが村上龍に対する印象を変えるかもしれません。

私はこの本の舞台となっている1969年の長崎を知りませんが、そこで生きた人たちの考えや感覚は何となく手に取れるような気になれます。

そしてきっとこれから何年後の誰かが読んでも、同じような感想を持つのではと思えるのです。

そんな普遍性こそ、69 sixty nineを名作としておすすめしたい理由になっています。

まあ色々御託を並べましたが、69 sixty nineは本気で感情を爆発させるキャラクターたちに寄り添うことで、「なんだか頑張ろう」と思える本です。

少し落ち込んだときにでも、手に取ってみることをおすすめします。

69 sixty nine (文春文庫)

69 sixty nine (文春文庫)

村上龍を読む前に知っておいてほしいこと

暴力的で破壊的な世界

村上龍の本には、暴力的な描写や不快感を与えるようなシーンも頻繁に出てきます。

なかなかに直接的なものも珍しくないので、おすすめするのに気を使うことも多いです。

しかしそれにはきちんとした意味があり、その小説の形成に大きく関わっているものばかりとなっています。

人によっては読みづらいものも多いかもしれませんが、最初から「こういったものは無理!」とはねつけるのではなく、できるならその意味を考えながら読んでみることがおすすめです。

個人的には村上春樹が官能的なシーンで描いているものが、村上龍では暴力的な描写によって表現されているのではと考えています。

どちらも根底にあるものを純度の高いまま抽出するために必要な作業であると思われるので、村上龍の作品を読むのならぜひ暴力的で破壊的なシーンを積極的に楽しんでいきましょう。

自分をどの位置に置くのか考えるのが面白い

村上龍の作品には、本当に色々なキャラクターが登場します。

そういったキャラクターを引き立てているのは周囲の環境や世界観ですが、それらに「自分自身」をどう配置するのか考えるのも、村上龍を楽しむ方法の1つです。

SFやフィクション性の強い作品ばかりなのに、村上龍の作品には不思議と読者のための居場所が用意されているように感じます。

どこからこの物語を見るのかを選ばせてくれるような感覚を味わった人は、私以外にもいるのではないでしょうか。

しかもそれは映画館の席を選ぶのではなく、スクリーンのなかの演者としての立ち位置を選ばせることに近いです。

ずっと同じ場所から物語を見る必要はないので、村上龍を読むときにはときどき自分の立ち位置を動かして、色々な角度からストーリーを追ってみることをおすすめします。

このことを意識しておくと物語の内容をすべて把握した2回目以降の読書も、別の切り口から楽しむことができるでしょう。

ただ本の向こう側から小説を読むのでなく、せっかくなら村上龍の世界にどっぷり入りこむために、自分をどの位置に立たせるか考えてみてください。

スポーツのような疲労感のある読書

村上龍の本って面白いのは間違いないのですが、とっても疲れるものでもあると思うのです。

それは先に挙げた破壊的なシーンが理由だったり、文章量の多さと物語の長さが原因だったりしますが、気づいたときには疲れてしまったというパターンも非常に多いでしょう。

しかしその疲れは決して嫌なものではなく、スポーツの後にやってくる爽やかな疲労感に似ています。

むしろ本を読んで疲れるということが、1つの面白さにつながっていくのではと考えられるのです。

特に初見の本は夢中になってしまいがちなので、どっと疲れが襲ってくるということも多々ありました。

それでも不思議なほどにまた読みたいと思わせるのは、その疲れが「面白さを求めた結果」としてついてくるものだからだと思うのです。

これだけ疲労することができる本は、逆になかなかありません。

なので村上龍を読む際には、その疲れも楽しむことを忘れないでくださいね。

常に主観を持ち続けること

村上龍の作品は勢いがすごいので、知らず知らずのうちに受け身で読み進めてしまいがちとなります。

しかし小説によってはその受け身の姿勢が物語を退屈にすることもあるので、なるべく主観を持ちながら作品を読むことがおすすめです。

「自分だったらどうするか」「このシーンにはどんな意味が?」といった考えをすることで、村上龍の世界はもっと身近なものとなります。

非現実的な場面が多いためつい「これはフィクションだから自分に関係ない」と断定してしまいがちですが、実際には現実の世界にリンクするようなものもたくさんあるのです。

常に自分の主観を持ち合わせて、そこに小説の内容を照らし合わせていくことが、読書を快適にする1つのコツになることを知っておいていただきたいですね。

いっしょにおすすめしたい作家

ドストエフスキー

その物語の密度と過激さ、そして疲労させるほどの重圧感を放つロシアの文豪ドストエフスキーは、村上龍と通ずるところが多い作家なのではないでしょうか。

特に「悪霊」や「罪と罰」などの小説には村上龍作品と同じ血が流れているような気がするので、気になったのならチェックしてみることをおすすめします。

難解かつ長いということで初心者お断りの雰囲気があるドストエフスキーですが、近年の翻訳によってかなり読みやすくなっているので時間さえあれば読破することも難しくはありません。

特に光文社古典新訳文庫の本はその時代やロシアの文化、ドストエフスキー本人の生い立ちなどを詳しく解説してくれているので、非常に作品を理解しやすくなっています。

どうしてそういった小説が書かれたのかが推測しやすく、馴染みやすい物語となって再登場しているのです。

村上龍を読んだこの機にドストエフスキーまで読書の幅を広げられれば、もっと小説の深みにハマることもできるでしょう。

ハーラン・エリスン

「世界の中心で愛を叫んだけもの」で知られるハーラン・エリスンも、村上龍を気に入ったときには合わせて読みたい作家の1人です。

ハーラン・エリスンによってアクティブに書かれる人間の闇の部分は、村上龍にハマった経験があるのならきっと読み応えがあるものになると思います。

村上龍のSF的手法に興味を持てたのなら、ぜひチェックしてもらいたいですね。

表題作を含んだ「世界の中心で愛を叫んだけもの」は短編集となっているので、読みやすいというメリットもあります。

翻訳本に慣れていない場合にも、手に取ってもらいたい1冊となるでしょう。

村上春樹

村上つながりでというわけでなく、同世代を生きている作家である村上春樹と村上龍には、やっぱりどこか近しいものを感じます。

文体や表現方法は正反対ともいえる2人ですが、だからこそそのアプローチの違いが面白く読めるのではないでしょうか。

特に村上春樹のなかでもバイオレンスな一面を覗くことができる「ねじまき鳥クロニクル」や「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は、要チェック小説となりますね。

どちらも好みがはっきりと分かれる小説家であるといえるので、仮にどちらかをイマイチに感じたとしても、もう片方を読んでみることがおすすめです。

本格的な純文学であることは間違いないため、そこから得られるものは魅力的であることでしょう。

まとめ

村上龍という偉大な小説家は、その劇薬のような文体や物語を使いこなして、1つの芸術を作り上げたといってもいいのではないでしょうか。

もう2度と書かれないような作品ばかりなので、ぜひ1度はその衝撃を体験してみてください。

毒にも薬にもなるような小説だからこそ、時間をかけて読む意味があります。

何か迷っているときや辛いときほど、村上龍の小説が染み入るかもしれませんよ。

この記事を書いた人

syunkin999