次世代に残したい山崎豊子のおすすめ小説!そのスケールを体感してみよう!

山崎豊子のおすすめ小説

「山崎豊子」、その作家名を聞いたとき、あなたはどんな物語を思い出すでしょうか。

圧倒的名作の数々を書き上げた山崎豊子は、硬派な本が減りつつある昨今でも、いやさらにずっと先の未来でも、間違いなく読み続けられることになる作家です。

しかし私もそうですがどちらかといえば映像化された作品の方が有名&馴染みがあることが多く、肝心の原作を読んだことがないという人はかなりいるかもしれません。

そこで個人的ですが山崎豊子のおすすめ作品を5つご紹介しますので、ぜひこの機に原作小説の面白さにも触れてみてはいかがでしょうか。

山崎豊子にしか描けなかった数々の魅力が、読書の楽しみ方を再確認させてくれるかもしれませんよ。

山崎豊子のおすすめ小説5選!

沈まぬ太陽

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

とりあえず、といったら失礼ですが、それくらい山崎豊子の定番となっているのが「沈まぬ太陽」です。

物語を支える圧倒的な構成力はもちろん、細かなところから人間性を感じさせてくれる文章力と表現力も備わっているため、山崎豊子作品の入門としてふさわしい本になっています。

どうしてこの作家の作品は映像化されるのか。なにが読者を引き寄せるのか。沈まぬ太陽を読めばそういったカラクリがよくわかることでしょう。

お話の舞台となっているのは航空会社ですが、多角的な視点から切り込みが入れられているので、世代を問わずにその世界観にのめり込めます。

ドキュメンタリータッチの小説のなかにはリアルさを追及するあまり退屈さを感じさせてしまう作品も多いですが、沈まぬ太陽に関してはそういった心配は無用。

個人的な評価としては派手すぎるくらい(最初のイメージに対して)なので、むしろ山崎豊子の書く人間という生き物にわかりやすく惹かれることになるかもしれません。

人間ならではの理想を追いかけるような感覚は、作者が大変な労力をかけた沈まぬ太陽だからこそ表現できる領域です。

文庫本でも全5巻とかなりの長編であるためそれなりの時間を要しますが、一読の価値はあるといえるでしょう。

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

白い巨塔

白い巨塔〈第1巻〉 (新潮文庫)

沈まぬ太陽も実写映画として放送されていますが、それ以上に映像での印象が強いのはこちらの「白い巨塔」ではないでしょうか。

今やドラマなどで定番となった医療もの、なかでも病院の内情とそこで生きる人たちにスポットを当てるスタイルのバイブルでもある本作は、今となってはある意味安心して読めるタイプの小説となっています。

「安心」といっても文章や構成がチープに感じられるようなことではなく、読者の感覚が物語の雰囲気にマッチするようになったということなので、今読んでも存分にその設定と描写されるさまざまな心理を楽しむことができるでしょう。

小説としてはやや「硬め」の部類に入りますが、読みやすさもしっかりと保たれているので、必要以上に身構えることはありません。

文庫本で全5巻という大作でありながら、スムーズに読み進められる点もまた白い巨塔の魅力だといえるでしょう。

人間を評価する難しさというか、人とは決して一面だけで出来上がっているわけではないという1つの真理を感じさせるような内容となっているので、読書後と前では人間関係に対する考え方が変わってくるかもしれませんね。

ちなみに白い巨塔は2019年に再びドラマ化することが決定しているため、そういった点でも今おすすめできる小説となっています。

この機に原作小説の方から読んで、映像化された内容との違いをチェックしてみるのも面白いでしょう。

白い巨塔〈第1巻〉 (新潮文庫)

白い巨塔〈第1巻〉 (新潮文庫)

不毛地帯

不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))

山崎豊子作品のなかから個人的なおすすめをするのであれば、「不毛地帯」は外せません。

近代史の要素と現代の要素、その2つを物語によって直接的につなげているような本作は、芸術ともいえるような完成度を誇っています。

作者の得意技でもある「導入から読者のこころをつかむ」点と、世界の変化に翻弄されていく主人公の「心理的なゆらぎ」が、不毛地帯という小説ならではの面白さを作り出しているようです。

サクセスストーリー的なところもポイントとなっているので、どちらかといえば働いている社会人に読んでほしい作品だといえるでしょう。

文章になっているから読み取れる。言葉だからこそ表現できる。そんな小説の技巧も不毛地帯の魅力となっています。

題材的にも「ノーベル文学賞を狙えたのでは?」と感じられる出来となっているため、この機に文庫本全5冊の読破をおすすめしたいですね。

不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))

不毛地帯 (第1巻) (新潮文庫 (や-5-40))

女系家族

女系家族〈上〉 (新潮文庫)

小説で「人間」を書くのが山崎豊子の醍醐味だと考えられますが、なかでも「女系家族」はその部分に深くまで踏み込んだ名作となっています。

今となっては想像しがたいくらいになってきた昭和が舞台でありながら、書かれている問題は現代バージョンでもう1度再現できそうなほど身近です。

「人間って結局こうなのか」と感じることもあれば、「やっぱり人って奥深い!」とも思わせられる本作は、読書を通して高度な人間観察をしているような気にさせてくれます。

女性主人公だから女性が楽しめる本、といったことではまったくないので、ぜひ今こそ多くの人たちに読んでもらいたい作品ですね。

これはまた個人的な感想ですが、谷崎潤一郎ファンとしては女系家族を読むとどうしても「細雪」を連想しないわけにはいきません。

細雪では日本的な「美」が極限まで追求されていますが、一方で女系家族で見られる「醜態」ともいえるようなものは控えめでした。

山崎豊子はこの醜態もまた1つの人間の美として、女系家族に盛り込んだのでは?と想像してしまいますね。

女系家族も細雪も長編小説としての完成度はトップクラスなので、どちらかを読んだのならぜひもう片方もチェックすることをおすすめしたいです。

女系家族〈上〉 (新潮文庫)

女系家族〈上〉 (新潮文庫)

約束の海

約束の海 (新潮文庫)

残念ながら山崎豊子さんは、2013年にお亡くなりになられています。

しかし遺作として残された「約束の海」は、最後まで山崎豊子らしさを失わない隠れた名作として認知されつつあるのです。

さまざまな形で歴史との関わりを書いてきた作者が、この時代に約束の海のような直接的な物語を選んだのが印象的であり、今となっては謎の1つとなります。

平和についてもう1度考える大切さを感じさせる、壮大な物語の構想があったのかもしれませんね。

結果的に約束の海は未完となっているため、小説の完成度や面白さを正確にはかることはできないでしょう。

しかしこの本で書かれようとしていた物語や、構成の痕跡を想像することはできます。

山崎豊子がどのようなストーリーを考えていたのか、この1部だけの内容からどれだけ汲み取れるか挑戦してみるのもいいのではないでしょうか。

ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」や夏目漱石の「明暗」、川端康成の「たんぽぽ」、太宰治の「グッド・バイ」なども未完の小説ですが、これらには終わっていないからこそ生み出される独特の魅力が備わっていると感じられます。

未完だから読む価値がないと切り捨てるのは間違いだと私は思うので、山崎豊子を知るのなら最後の作品である約束の海もしっかりと読み切っておくことがおすすめです。

約束の海 (新潮文庫)

約束の海 (新潮文庫)

どうして山崎豊子は面白いのか?

描かれるスケールが大きい

山崎豊子作品で描かれている舞台のスケールは非常に大きく、ときには読者を飲み込んでしまうほどのパワーがあります。

その大きさゆえに物語の展開を先回りして想像することができず、たくさんのおどろきが次々に追加されていくことになるのです。

物語がどこに向かっているのか予測させないこのスケールの構成力こそ、山崎豊子の面白さだといえるでしょう。

馴染みのない世界を書いてくれるので、フィクションとリアルの境界線が上手に隠されているのもポイント。

無粋なことを考えずにただただ小説のスケールを楽しみながら、納得のいく読書を続けることができるでしょう。

小説を読んでいるとたまに「こんなことありえるの?」と冷めてしまうこともありますが、山崎豊子作品でそういった感覚を味わった記憶はないですね。

時間をかけて取材することが多かったようなので、その結果が作品のリアルさとスケールの両立に反映されているのかもしれません。

長さから感じられる小説の可能性

山崎豊子先生の作品は、基本的に長いです。

その文章量を理由に敬遠している人の気持ちも、わからなくはありませんね。

しかし手に取ってみるとわかりますが山崎豊子作品はとても読みやすく作られていて、だらだらと続くような倦怠感は感じづらくなっています。

よく「読んでみたらあっという間だった」という感想がありますが、まさにその通りの小説ばかりだといえるでしょう。

実際に読んでみると長さの分だけ期待値が高くなり、分厚い残りページがむしろ安心感を与えてくれます。

むしろ長いからこそ面白い、この長さだから成立しているという特徴が、山崎豊子作品ならではのものとなっているのです。

短く収めることが小説においての1つの技法となりつつある昨今、逆に長いから面白いという作品は珍しいかもしれません。

小説の世界にハマれれば「まだまだたくさん読める!」とさえ思えてくるので、1度山崎豊子作品の長い物語に心身を浸らせてみることをおすすめします。

結局描かれているのは身近な人間

さまざまな舞台装置と紆余曲折あるストーリーによって複雑化されていますが、山崎豊子作品で描かれているのは私たちの身近にいる人間です。

人間という現実的な存在を重厚な物語で包むような構成となっているので、自然と親身になって小説を楽しめるのではないでしょうか。

登場人物に対して応援したり、イライラしたり、手に汗握ったりできるのは、作者である山崎豊子が人間という生き物を明確に書き出そうとしたからだと私は思います。

色々な体験を通してどのような人間が作られるのか、小説越しに観察してみるのもいいでしょう。

読者を無下に跳ね除けずに共感させることができるのは、山崎豊子ならではの人間味が作品に作用しているからだと考えられます。

あらすじだけでは読み取れない魅力が山崎豊子作品にはあるので、ぜひ読書から人間の面白さを感じてみてください。

山崎豊子が気に入った人におすすめしたい作家

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池井戸潤

山崎豊子と似た要素や構成の下地を持っている作家といえば、「池井戸潤」でしょう。

企業を軸に人間の強さを書くその手法は、現代寄りの山崎豊子といってもいいかもしれません。

一方で山崎豊子よりもかなり柔らかい文体が主流なので、とっつきやすさという点では池井戸潤がおすすめできます。

長編すぎるということもないため、山崎豊子を読んだ後そのまま池井戸潤に挑戦してみるのもいいですね。

多くの作品が実写化されているというところも共通点であり、原作と映像作品の違いを楽しむことができます。

小説だけでなく映画やドラマもいっしょにチェックして、その魅力を多面的に味わってみるのもおすすめです。

横山秀夫

ミステリー的な要素が強めですが、「横山秀夫」もまた山崎豊子を読んだ人におすすめしたい現代作家です。

ドラマティックを演出する構成力は目を瞠るものがあり、小説の最初から最後までずっとのめり込ませてくれる勢いが特徴。

山崎豊子の小説に見られる流れや迫力を楽しめたのなら、横山秀夫もピッタリとハマるかもしれません。

まずは「半落ち」や「第三の時効」など定番の名作を読んで、その独特の勢いを味わってみることをおすすめします。

横山秀夫も多数の作品が映像化されているため、小説だけでなく映像作品を楽しみたい人にうってつけですね。

宮部みゆき

言わずと知れたミステリーの大御所である「宮部みゆき」は、山崎豊子好きの読者と波長が合う小説家ではないでしょうか。

大ボリュームのストーリーや人間を描く技術は圧倒的で、ジャンルは違えど山崎豊子と似ている部分は多くあるように思えます。

緻密なプロットはどんどん没入感を高めてくれるため、文章量が多くとも一気に読み進めることができるでしょう。

特に「理由」や「ソロモンの偽証」などは長編小説だからこそ書き切れるクオリティとなっているので、未読の方は山崎豊子と合わせてチェックしてみてください。

上記の作家と同じように宮部みゆきの作品もたくさん映像化されているので、映画・ドラマ好きにもおすすめできます。

書いている小説のジャンルも幅広いため、宮部みゆきをきっかけにこれまで挑戦してこなかったタイプの本を手にしてみてはいかがですか。

湊かなえ

何となくなのですが、個人的には「湊かなえ」の面白さもどこか山崎豊子作品に通じるものがあるように思えるのです。

人間の業や暗い部分を書くことが多い湊かなえは、気持ち良く読むことばかりが小説ではないことを教えてくれます。

そういったカタルシスに近い感覚が作品から読み取れるからこそ、たくさんの読者を惹きつけることになっているのです。

山崎豊子にもまた、湊かなえのようにスムーズに読ませない面白さのようなものがあります。

それは文章が読みづらいということではなく、「流し読みをさせない」といった感覚に近く、常に小説のなかに没頭させてくれる魅力として認識されるでしょう。

これは本当に絶妙な感覚なのですが、読書をよくする人には何となく覚えがあるのではないでしょうか。

物語にそういった悶々とした面白さを求めるのなら、山崎豊子と湊かなえの組み合わせもおすすめできますね。

まとめ

山崎豊子の存在は、これからも映像化された作品によってずっと受け継がれていくとは思います。

しかし私は原作小説にこそ、山崎豊子が描きたかった世界が実現されていると感じられるのです。

これまでドラマや映画しか見たことがなかった人は、この機に小説作品にも手を出してみることをおすすめします。

当たり前ですが小説としての完成度はとんでもないレベルなので、今から読んでも後悔はしませんよ。

ここで山崎豊子作品に触れておけば、同時代の小説家たちにその興味を広げていくきっかけにもなっていくでしょう。

この記事を書いた人

syunkin999